白日の元に晒される闇3-2

「いつからだ。いつから圭太を殺そうだなんて」


「だから、圭太が生まれてからずっとだってば。まあ、実行に移す度胸は無かった訳だけど。これでも、兄貴と関わらずに生きるつもりだったんだぜ。引き金を引いたのはお前だ」


「は……?」


  胸元を探った矢野は一枚の紙を取りだした。


  見覚えがあるのか、赤木が怪訝そうに呟く。


「それ、俺が送った結婚式の招待状?」


「そうさ。二年前、兄貴が送り付けてきたやつだ。せっかく、こっちが関わらずにいようと思ってたのに、兄貴が悪いんだよ」


「俺が、悪い……?」


  赤木が愕然と呟く。


  矢野はその様子を見て嬉しそうに笑う。


「蓋をしていた感情が爆発したよ。殺してやる。そう、決意した。兄貴が悪い。兄貴が俺の感情を焚き付けた。同情してくれても良いだろ。俺は善良な弟として、関わらないでいてやろうとしてたのにさ」


「どんな事情があろうが、犯罪者に同情する気は一切無いよ。どんなお題目を並べようが、犯罪は犯罪だ」


  聞こえた声は僚真の声。


  あの時と同じだ。


  刑事を辞めれば良いと言い放っていた、あの時と同じ。


  腕を組んだまま、僚真は静かに言葉を紡ぐ。


「理由があれば人を殺して良いんなら、この世は犯罪だらけだ。そうなってないのは、皆どこかで理性を働かせているから。理性を超えた貴方に同情する気は一切無い」


「探偵如きが偉そうに。何日もここに来ておきながら、俺の殺意に気付けなかったのはお前らだろ。お前らが圭太を殺したようなもんさ」


「ふざけんなよ、テメエ。自分のやったことは棚に上げておきながら、何の罪も無え神崎を攻めてんじゃねぇよ」


  足音猛々しく矢野に近寄った蓮は、矢野の胸ぐらを掴んで怒鳴る。


「やめろ、蓮。探偵が暴行罪で検挙されるだなんぞ、笑えんことをするな」


  宮野が二人を引き剥がす。


  蓮は不満を顔に張り付け、宮野を睨む。


「被害者の部屋に防音シートを貼ったのもお前さんか?」


「そうだよ。アイツの悲鳴が響いたら台無しだからって。兄貴が仕事に、圭太が学校に行ってる間に準備したんだ」


「睡眠改善薬はどこにある」


「駅のロッカー。身体検査とかで怪しまれないように、使う分以外はそこに隠してある。ロッカー番号は二四番だ」


  何か思い出したのか、矢野が吹き出した。


「それにしても傑作だったぜ。俺が出したジュースを何の疑いも無く飲み干して。眠った圭太の首にボールペンを刺した時は興奮したよ。やっと、やっと殺せたってな。濱江にも感謝しないと。何も知らないとはいえ、俺のアリバイ作りに協力してくれたしさ」


「お前っ!」


  赤木が矢野に掴みかかる。


  顔を真っ赤にした赤木は、腕を振りかぶる。


  殴るつもりだ。


「ダメです、赤木さん。彼は法のもとに裁かれるべきだ。今、貴方が手を汚す必要など微塵も無い」


「宮野警部補の言う通りだ。我々警察が責任をもって、矢野慎を裁けるよう努めよう。ご子息のためにも、堪えてください」


  橋爪が赤木の肩を掴んで、言い聞かせるように声を張り上げる。


  宮野も頷いて同意する。


  赤木は力が抜けたのか、膝からへたりこんだ。


「矢野慎。赤木圭太殺害の容疑で逮捕する」

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