白日の元に晒される闇2-2
俊矢は背負っていたリュックサックから一枚の紙を破れないように取り出し、皆に見えるように掲示する。
「でかしたぜェ、ツキトシ」
目を通したヒロがシニカルな笑みを浮かべる。
彼はこの中で一番、これの証明性を身に染みて分かっている。
だから、急ぎで作らせた。
これに時間が掛かったのだ。
「これは被害者の解剖鑑定書だ。監察医務院の監察医に、急ぎで解剖を頼んだ。時間が無かっ
たから、胃の内容物と血液検査の鑑定に留まったけどな。残りの結果は後日、警察に送ると言質は取ってある。その結果、遺体から睡眠改善薬の成分が検出された。それも、かなり多いものだった」
「ドラッグストアで販売されているのはァ、あくまで睡眠改善薬だァ。睡眠導入剤は医療機関でしか購入出来ないようになってるぜェ。俺が言うんだから間違いねェ。大方ァ、目立たないようにドラッグストアでの購入にしたってェところだろォ」
「ヒロさんの言う通りだ。そして、試したんだろう。どれほどの容量を飲ませれば、眠らせることが出来るのかを。何日も、何日も掛けて」
元博が仮入社期間として僚真とともにこの家の依頼に赴く前、真子と交代で僚真に付き添っていたのは俊矢だった。
勉強を見ることが俊矢の仕事だったが、圭太が眠たそうに目を擦っていた日が多かったのは記憶に新しい。
きっと、随分前からの計画だったのだろう。
殺意の刃をずっと磨いていたのだろう。
誰にも気づかれることなく。
「赤木さん。酷なことをお聞きしますが、圭太くんが睡眠改善薬を飲むことについて、心当たりはありますか?」
「無い。無いよ、そんなの。あるわけないだろ。お前なのか、慎。本当にお前が圭太を殺したのか?」
蓮の問いを否定した赤木は、矢野を見つめる。
困惑と猜疑を含んだ瞳。
信じたくないのは分かる。
被害者は実の息子で、加害者は実の弟。
そんなの、地獄以外の何物でもないじゃないか。
どちらを選んでも、どちらか一方は必ず地獄を引くことになる。
蓮は取り乱す赤木を横目で見ながら、推理を続ける。
「順番はこうだ。被害者の部屋に入ったアンタは、被害者を睡眠改善薬で眠らせた。次は被害者の首にボールペンを突き刺し、ベッドに横たわらせてから部屋を後にする。アリバイ確保のための電話はそのあとだ。それからアンタは、被害者が既に死亡していることを知り、元博にこう頼んだ。『圭太が寝てる。十五分後に起こしてやってくれ』とな」
蓮の推理はおそらく、完璧に近いほどに正解だろう。
ここに来る前に電話口で聞かされた、僚真の推理と同じだから。
やはり、手放すには惜しい人材だ。
この事件が解決した後、改めて引き入れるべきか。
蓮は目を細め、矢野に訴える。
「違うなら違うとハッキリ言ってくれ。探偵は冤罪が許されない。冤罪は、冤罪を掛けられた人物だけでなく、周囲をも狂わせてしまう」
「当たり前だ。違うに決まってる。慎がそんなことをするはずがない。だって圭太は、慎の甥っ子なんだぞ。家族なんだ。動機がないじゃないか!」
「動機は嫉妬ですよね」
国際電話までして、やっと分かった。
証拠も揃ってアリバイも崩して、でも明確な動機までは分からなかった。
叔父が兄ではなく甥を殺す動機が、どうしても分からなかった。
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