白日の元に晒される闇1-3

神崎に目配せする。


頷いた彼は立ち上がり、一度姿を消す。


「実際にどうやって圭太くんが殺害されたか、再現をしよう。もっとも、生身の人間で行なうわけにはいかないから、少々違ってしまうのも事実だが。限り無く近付けたつもりだ」


「お待たせ、九重」


神崎が運んできた水槽をテーブルの中心に置いてもらう。


「ありがとう、神崎。さて、これは何でしょう」


水槽の中に手を突っ込み、ある袋を取り出す。


「赤い水が入ったビニール袋。なぜ、ボールペンが刺さっている?」


「慌てるなよ、おっさん。そうやって焦ると、真実を見失うぜ」


意識的にゆっくりと話す。


場の雰囲気を支配する。


「見ての通り、水の入ったビニール袋にボールペンを刺したものだ。赤いのは絵の具を混ぜたから。出来るだけ血液っぽくした。本来は鉛筆で実験するものなんだけど、今回は凶器がボールペンってのもあったから、こうしてみた。赤木さん。触ってみますか?」


ビニール袋を握ったまま、赤木の目の前に差し出す。


怪訝な顔をした赤木が、戸惑いつつビニール袋に触れる。


「これがなんだと言うんだ?」


「水は漏れ出てませんよね。これこそが、今回の事件のトリックなんだ」


ちょいちょいとボールペンを突っつく。


ゆらゆらとボールペンが揺れるが、決して水が漏れ出ることは無い。


「ビニール袋の素材であるポリエチレンに摩擦が加わると、ポリエチレンは収縮する。摩擦によって収縮し、ボールペンをがっちりと掴んでるって訳だ。要は、蓋がされている状態」


原理を説明する。


理科の実験等でも有名なこの現象を、まさか推理で行なうとは思わなかった。


「ちなみにこのボールペン、約一五分前から刺してある。抜くとどうなるか想像できるか?」


鋭い視線を皆に送る。


警察連中は首を傾げ、ヒソヒソと話し合う様子が見られる。

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