白日の元に晒される闇1-1
現在時刻、十九時二四分。
ギリギリで場が整った。
部屋中の人間の目線が集まる。
どうやら、俊矢は間に合わなかったらしい。
仕方ない。
先に始めるとしよう。
真実を明らかにするために、人の人生を狂わせるための推理を。
「これから、探偵法第二条に則り、赤木圭太殺害事件について解き明かす。探偵ナンバー二九〇、九重蓮の名の下に、正しい事実のみを明かす」
そう宣言し、指を一本立てる。
「まず初めに、鹿野元博は無実だ。彼は赤木圭太を殺害していない」
「そんな茶番を聞くために、我々は集められたというのか?」
案の定、赤木玄が苦言を漏らす。
想定内だ。
だって、信じているから。
赤木玄は愚直なまでに、元博の有罪を、弟の無実を信じているから。
「もちろん、何の確証も無しに戯れ言を言ってる訳では無い。彼にはアリバイがある。犯行時刻と思われる時間、彼は俺宛にメールを送っている。そして、留守番電話も。留守電に関しては、アリバイの証明がしやすかった」
証拠を隠蔽・捏造されたと思われないよう、元博と蓮の携帯は、初対面の刑事に調べてもらった。
宮野とは知り合って長い。
彼とは知己の仲であることから、宮野が調べたところで証拠能力になり得ない可能性も否定出来なかった。
「それともうひとつ。元博の指紋が、ドアノブの内側からは一切検出されなかった。だよな、鑑識」
握り潰される寸前だった証拠のひとつ。
これだから警察は信用出来ない。
自らが犯人だと決めつけた人物を確実に逮捕するため、時になんの躊躇いもなく証拠を握り潰して冤罪を生み出す。
「ああ。大したことじゃないから黙っていただけだけどな」
「少なくとも、彼が被害者の部屋から出ていないことを示す。大したことだろ。職務怠慢も良いところだな」
「手袋をしていた。そう考えると不思議ではないだろう?」
困ったように笑みを浮かべる若い鑑識官に、わざとらしく溜息を吐く。
職務怠慢もいい所だ。
「見落としがある。凶器からは指紋が検出され、ドアノブからは検出されなかった。もし手袋をしていたのだとしたら、おかしいだろ?」
「確かにね。その順番なら逆だ。手袋をした手で凶器を握り、犯行後に手袋を外した。その方が自然だよね」
神崎の援護射撃。
探偵である彼は、蓮が言わんとしていることをきちんと汲み取ってくれる。
「そういうことだ。詰めが甘い犯人だよ。なあ、矢野慎?」
ギロリと矢野慎を睨みつける。
赤木圭太を殺害した、犯人を。
当の本人は困惑した様子で首を傾げている。
「おいおい。俺が犯人だなんて、ふざけたことを言うなよ。大体、そいつが犯人じゃないっていう明確な証拠はあるのか?」
「そうだな。なら、最後にひとつ。アンタ、何であのことを知っていた?」
「あのこと?」
鑑識から借りた、凶器のボールペンが入った袋を取り出す。
ベッタリと付着した赤黒い血液に、矢野は目を逸らそうとする。
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