始まりはいつも雨3-2
何が会えて嬉しいだよ。
そんな蓮を諌めるように、元博に腰を叩かれる。
痛ってぇな。
仕方なく、言葉で反論する。
「何度も言ってるけど、俺は働くつもりは無ぇんだよ。断るために来たんだ。しつけぇぞ、お前ら」
「何故そうも頑なに拒否する。アンタは今現在、無職だ。ここなら月給に加えて依頼に応じての歩合制でもあり、夏冬のボーナスもある。依頼によっては危険手当も付く。決して悪い条件ではない」
「そういう問題じゃねぇ。何を言われようが、俺は意志を変えるつもりは無い。言いよれば、負かせられるとでも思ってんのかよ」
「そうやって、いつまでも塞ぎ込んでいるのか、アンタは。一度の失敗で情けない大人だな」
俊矢が放った言葉にギョッと目を剥く。
対して面白くなさそうな俊矢は、壁に背を預けて淡々と話を続ける。
「アンタが塾講師を辞めた理由は知っている。真子さんがアンタを引き入れたいと言った時点で調べた。だが報道も雑誌も、嘘と真実がごちゃ混ぜになっていて信憑性に欠ける。だから調べさせてもらった。あの、釘沼塾生殺人未遂事件をな」
「瀬戸先生、アンタ何考えてんだ?」
知らずのうちに、声が固くなる。
じゃあ、ここにいる全員が俺の過去を知っているのか?
どうして話したりしたんだ、瀬戸先生は。
真子を睨みつける。
何処吹く風で笑っている。
「私は、九重くんを引き入れたらどうかしらとだけ言ったわ。その後の行動は、ツキトシくんの判断よ。九重くんを正式に引き入れたいと言ったのもね。私はみんなの自主性に任せているだけ」
「加えて俺も調べたぜェ。九重蓮ってェ名前は聞き覚えがあったしィ、世間からの評価が正しかったらァ、引き入れるに値しないからなァ」
五十嵐が話に加わるが、脳裏に浮かぶのは嫌な考えばかりだ。
俊矢は挑むような目付きで、蓮を見上げる。
蓮より頭一つ分小さいくせに、瞳はギラギラとしている。
野心に溢れた瞳だ。
「俺たちに手を貸してくれ、九重蓮。アンタの力を俺は借りたい。アンタならきっと、ここで俺たちの味方になってくれる」
「調べたってことは、何があったか知ってるんだよな。俺は、目の前で起こった事件を止められなかった。塾講師である前に、許可証を所持する探偵であるのに。それが俺の実力だ」
蓮は懐からパスケースを取り出す。
そこに入っているのは黒と白の二色が彩られた探偵許可証だ。
蓮たちが住む国には、ある制度が存在する。
探偵資格を有する、探偵許可証制度。
年に一度だけ、試験がある。
様々な条件をクリアし、真に認められた者のみが所持し、提示することの出来るもの。
その歴史の始まりは、増え続ける凶悪な事件を解決するには、警察だけでは足りなかったから。
およそ三〇年前に施行された法律に則り、探偵は警察とほぼ同等の権限を得ることが出来るようになった。
蓮は、一七歳の時に取得した。
どうしても、必要だったから。
「何でも屋ってことは、俺の資格は役に立たない。それ以前に、俺みたいな人間がいれば評判は地に落ちる。俺のことを調べたんなら、この言葉の意味は分かるだろ。だから俺は、ここで働くつもりは無いんだ」
「何でも屋の仕事は多岐にわたる。探偵である九重蓮が必要かもしれない。それに、俺はアンタ自身に興味がある」
「知るか。俺の代わりに、元博を雇えよ」
クイッと元博を指差す。
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