始まりはいつも雨3-1

入ってきたのは、黒いスーツを着た青年と、金髪にタンクトップにハーフパンツという出で立ちの青年だった。

金髪の青年は蓮たちを見るが早いが、ダダダっと駆け寄ってきた。

「キミたちが新しく入る人?僕は神崎僚真」

「走るなよォ、神崎。響くぞ。また下から苦情がァ来んだろォ」

「ごめんねヒロくん。ただいま社長さん、真子さん。ちゃんと依頼をこなしてきたよ。今日の分の依頼はお終いだね」

神崎と名乗った青年はバタバタと慌ただしい動きで動き回る。

さながら、尻尾を振った犬のようだ。

「何も無かったかい、僚真くん」

「半分くらい?依頼はちゃんと完遂してきたよ。報酬は、社長さんの口座に振り込んでもらってるからね」

何とも曖昧に首を傾げた神崎はキョロキョロと辺りを見回す。

「真子さんどこ行ったの?」

「おかえりなさい、神崎くん。あら、ツキトシくんは一緒じゃないのかしら。足音は二つだったけど」

はいと神崎にお茶の入ったコップを渡し、真子は尋ねる。

神崎は勢い良くコップを傾けて喉を鳴らす。

「一緒に帰ってきたよ。多分、先に向こうで資料を纏めてるんじゃないかな。僕、あっちで報告書の纏め書いてくるね。覚えてるうちにやっておかないと、またツキトシに怒られちゃうからさ」

「二人とも、戻りました。後で僚真に報告書を書かせます。ヒロさん、起き上がって大丈夫なのか?」

「だからさァ、ただの寝不足だって。どいつもこいつも過保護か。お前はその代表例だなァ、ツキトシくんよォ」

五十嵐はツキトシと呼んだ青年の頭をぐしゃりと撫ぜた。

青年は満更でも無い顔でされるがままだ。

その光景に、吐き気がする。

目の前で広げられる幸せな映像に、心が追いついていない。

「蓮。顔が怖いぜ。どうしたんだ?」

「瀬戸先生。話が終わったんなら俺、帰っていいですか?」

ゲンナリした顔で言うと、慌てた様子で引き止められる。

「待ってちょうだい。代表が帰ってきたからね。うちで誰よりも若い、やり手の一八歳よ。ほらツキトシくん。自己紹介なさい」

真子はツキトシという青年の肩を掴んで、ニッコリと笑いかける。

代表も何も、俺は今すぐ帰りたいのだが。

青年は蓮の姿を見るやいなや、キュッと目を細めた。

探るような目つきだ。

「アンタが九重蓮か。俺は月沢俊矢。何でも屋の代表だ。ここにいるみんなから、ツキトシと呼んでもらってる。アンタのことは真子さんから聞いてるよ。アンタを欲しいと言ったのは俺だ。会えて嬉しいよ」

横柄な態度で憮然と告げられる言葉に、思わず舌打ちが出る。

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