始まりはいつも雨2-3

「俺がまともに最後に関わったのは、三ヶ月と一五日前です。もう腕は鈍ってる。お役には立てないですよ」

「三ヶ月なんてェ、ブランクらしいブランクってェわけじゃねェだろォ。そもそもォ、事務所を構えてないヤツにィ、依頼が来ることの方がァ、稀なんだしさァ」

五十嵐の声だ。

無関心そうにゲームに勤しむ反面、こちらの話を聞いていたのか。

「アンタに関係ないだろ。話に入ってくるなよ」

「見えちまうからァ、気になって仕方ないんだよォ。それにィ、もしお前がここで働くってんならァ、俺は先輩ってェことになるからなァ」

億劫そうに体を起こした五十嵐は、ゲーム機をポケットに仕舞って近付いてきた。

「大体ィ、九重蓮ってェ名前は割と有名だぜェ。例の界隈ではなァ。未だに沈静化してないってェのは難儀だねェ」

「馬鹿にしてんのか?」

こいつは俺の過去を知っているのか。

尚更、ここで働く気が失せる。

もう帰ってしまおうか。

「ヒロくん、喧嘩を売るんじゃない」

「はァい。そんなことよりィ、そろそろ帰ってきますよォ、アイツら」

「そうか。真子、あの子たちにもお茶を入れてあげてくれるかな?」

大五郎が声をかける前に、真子はキッチンの方へと姿を消していた。

行動力という点では、真子は蓮よりも上だ。

「蓮はどうして、何でも屋で働きたくないんだ?」

話が途切れ、場が沈黙する中、元博が気遣うように尋ねる。

元博には確かな理由を話した記憶は無い。

「何となく、じゃ納得しねぇよな。説明もしたくねぇし」

「お前は何となくで行動するような人間じゃないからな。ちゃんと理由がある。自分自身にも筋を通す人間だ」

意図を汲む幼馴染みには頭が上がらない。

いつも、敵わない。

だが今回は別だ。

「関係ねぇよ、お前にも」

そろそろ帰ろうか。

そう腰を上げたとき、乱暴にドアの開く音が響いた。

次から次へと、人の出入りがある事務所だ。

ああ、ますます帰り辛くなってきた。

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