始まりはいつも雨1-4

「止めときな、クソガキ。このまま店を出れば、お前は立派な窃盗犯だ」

「蓮?」

少年を引き寄せ、店の中へ放り投げる。

突然のことに驚いたのか大した受け身を取ることも出来ず、少年は背中を強打したようだ。

幼さの残る顔立ちで必死に睨みつけてくる。

「いきなり何するんだよ、おっさん。制服が濡れたじゃないか」

「誰がおっさんだクソガキ。服の中の雑誌とポケットの中の風船ガム、レジで支払いしてねぇだろ」

学ランの隙間から手を突っ込む。

片手で少年の動きを封じることは容易い。

まして、動揺している人間の動きは単純だ。

「万引きか」

「そんな優しい言葉で片付けんな、バカ野郎。立派な窃盗罪だ」

地元の中学校なら場所は分かる。

蓮と元博の出身校だ。

ここから徒歩で八分ほどの距離だったはず。

「学校と保護者に連絡。あと警察に通報だな。店長さん、バックヤードにこいつ連れて行け。犯罪者だぜ、コイツは」

「困るよ!お金は払うから、見逃して」

「なら初めからするな。もう遅せぇよ、甘ちゃんのクソガキが」

金を払えば解決すると考えているやつほど、腸が煮えくり返るやつはいない。

自分の仕出かしたことの重要さを分かっていない。

万引きは窃盗罪。

たった一回の万引きで店が潰れるなんてざらにある。

店が潰れれば、そこで働く人間は職を失う。

生活が出来なくなる。

生きていけなくなる。

そのことが分かっていないバカが多すぎる。

「スリルを味わうなんて馬鹿げた理由で、人の命を奪うことになる。万引きがしたいなら、人を殺すくらいの覚悟でやれ。それから警察に捕まれ。良くて厳重注意、悪くて家庭裁判所に送致だ。一応未遂だから、厳重注意だろうがな」

座り込む少年を、電話中の店長に投げ渡す。

こってり絞られるだろう。

前科は付かないが、噂にはなりそうだ。

それより、警察が来る前には店を出たい。

蓮の代わりに少年を確保している元博に声をかける。

「元博」

「なんだ?」

「角の本屋で待ってる」

返事を聞く前に店を出る。

出過ぎた真似をしてしまった。

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