倒すのに専用アイテムが必要な魔王

あばら🦴

「トドメだ! 魔王!」

 魔王城の玉座の間。世の魔族を統べる魔王と、魔王の撃破のために送り込まれた勇者が、血で血を洗う戦闘を繰り広げていた。

 激しい戦闘も佳境の末、ついに決着がついた。仰向けに倒れた魔王にすぐさま勇者がまたがり、剣の切っ先を胸の方に向ける。


「トドメだ! 魔王!」


 勇者の剣が力いっぱい下ろされ、魔王の心臓はその下の床ごと突き刺された。

 倒されたはずの魔王だがその顔は不気味に笑っていた。

 勇者は喜びもせず立ち上がると、その時魔王の死体が光り輝いて消えてしまった。

 そしてなんと、魔王の玉座に魔王が五体満足で鎮座していたのだ!


「ふはははは! 勇者よ! 我は決して倒されることはない! 貴様がいくら足掻こうとも我が滅びることはないのだ!」


 魔王は凶悪に笑った。死闘の末倒した強大な力を持った魔王が復活した、常人であれば卒倒するような絶望だったが勇者は冷静に問うた。


「お前、そのセリフ何回目だよ」

「む? ……これで百回目になるな。おめでとう、三桁突破だぞ」

「いい加減にしてくれよ!」


 勇者の怒号は魔王城に響いた。


「滅びなさすぎだろ! 諦めろよ、もう!」

「何を言うか。戦える限り戦うことこそが我の流儀だ」

「もっともらしいこと言いやがって……。というかお前はなんで百回も負けて笑っていられるんだよ」


 ハァ〜、とため息をついた勇者はその場に雑に座り込みあぐらをかいた。

 魔王の不死性を穿つ手段はあるのだ。それは伝説と言われる女神の鏡を持ってくること。だが───


「普通壊すかよ!」

「いや普通壊すだろ!? そんな危ないもの!」

「確かに! 普通壊すよな!?」

「貴様おかしくなっておらんか? そもそも、我より先に女神の鏡を見つけられなかった貴様の落ち度だというのを忘れるでない」

「だからってお前……。空気読めよバカタレが……」


 その一言に魔王がキレた。凄まじい魔力に滾る魔王は勇者を鋭く睨む。


「我を侮辱しおって! 許さんぞ!」


 勇者に超強力な魔王の魔法が放たれる。それに直撃した勇者はその威力によって跡形もなく消滅してしまう。

 すると十秒後、玉座の間の重厚な扉が開いた。


「よう。俺は女神に選ばれし勇者。そして魔王、お前を倒す者だ」

「貴様、そのセリフ何回目だ?」

「……これで百回目になるな」

「貴様も大概ではないのか!?」


 勇者は歩いて、さっきまであぐらをかいていた場所にまた座った。


「仕方ねーだろ。復活しちゃうんだから」

「よく我の復活に文句言えてたな! 一応対処できる我の復活と違って、女神の加護とかいう対処法のないインチキみたいな復活してくるから、タチの悪さなら貴様のが上だぞ!」

「うるせーな。お互い様だろ? 俺たちはどっちがやられてもどっちも無限に復活しちまうんだ」


 ハァ〜、と今度は魔王がため息をついた。


「このまま貴様と戦っても意味が無さすぎるのう」

「同じこと考えてたわ。どうせ倒しても復活してリセットなら、戦う時間がまるまる無駄でしかない。でも降参なんて絶対無理だしな。くだらないけど戦わなくちゃいけねーんだ」

「……そうだ! 良いことを考えたぞ!」

「えっ?」

「戦う時間が無駄であるなら、いっそ縮めてしまえばいい! どうせ復活するから戦う時間なんて有って無いようなものだ。そっちの方が無駄が無いだろう」

「というと?」

「ジャンケンを知っておるか? 負けた方が死ぬ、でどうだろうか。これなら無駄も無いだろう」

「……それいいな!」と勇者は乗り気になった。


 魔王と勇者はジャンケンをした。結果は勇者の負け。

 勇者は秒で死に、また奥の扉から入ってくる。

 時間はものすごく短縮された。


「いや、俺たちは何をしてるんだよ!?」


 勇者の怒号がまた魔王城に響いた。

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倒すのに専用アイテムが必要な魔王 あばら🦴 @boroborou

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