猫と商店街
星のねこ
猫と商店街
吾輩は猫である。名前は沢山ある。シロだとかクロだとかミャーだとかカワイイだとか、人間は好き勝手様々に呼んでくる。
なにやら白熱球が眩しい田舎のアーケード商店街で生まれたらしい。
ある男が大きくなった腹をした母親を見かねて家に上げ、生まれたのが吾輩と兄弟だ。あんまりにも大きい腹をしていたため、男は産気づいた母親の為に医師を用意していた。暖かい毛布を敷き、十分な食事を提供した。しばらくすると、産道に近い順から兄弟たちは順調に外に出ていった。吾輩が一番最後に一番小さく生まれ、一時心臓が停止したが、必死の救命により息を吹き返したそうだ。
正直なところ黄泉に行った記憶はないが、五月蝿いなと思って目を開けたところはよく覚えている。沢山の人間が一斉に顔を真っ赤にして、真っ赤な目から水を流している様子には少し笑えた。
奇跡のような誕生秘話は、喉を撫でさせてやっている時に何度も聞いた。聞き飽きたぐらいだ。別の話をしろと喉を鳴らしても人間は吾輩の崇高な言葉を聞き取れないらしい。全く困ったものだ。
幼少期は家族と過ごしたが、やがて独り立ちした。人間に飼われるなど二流。猫は一人で生きてこそ猫である。今は立派な野良として生を謳歌している。
野良には野良のルールがある。一つ、お互いのテリトリーを汚さないこと。ルールを破ればルールを破られる。尊厳を踏みにじれば、そこから先は抗争だ。お互いのテリトリーを尊重することがお互いの存在を認めていることの意思表示である。
吾輩のテリトリーは商店街の道が白いところまで。ここで働く人間を統率するのが吾輩の仕事だ。子供、転ぶなよ。今日の特売は豆腐と肉団子か。爺、元気か。なんだこの動く光は、捕まえてやる。観光客、この店のマグロが美味いぞ。人間は毎日働くから吾輩も休むわけにはいかない。とても大変な仕事だ。
しかし、ここには暖かい寝床はあるし、雨も掛からない。何よりも、ちょっと腹を見せてやれば食べる物に困らないのがとても良い。ほら、また人間が缶詰を持ってきた。今日は金か、悪くない。
猫と商店街 星のねこ @star-summer-cat
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