1.灯光の花の秘密

道の正面に凛と咲く謎の花。少年はそれを前にしてただ佇んでいた。背後から追いついてきた日光が、花を歪な色に晒してもなお、花は形容できぬ陰を保っていた。どこか感じる懐かしさによって逃亡の緊張感も解れてきた時、少年の中に意思が芽生えた。「あの花の正体を解き明かさねばならない」という脈絡のない不気味な使命感が少年の胸を満たした。するとその意思に共鳴するように花は灯光をより強くして反復して光を放ち、あたりを閃光に包んだ。


目が覚めた時には少年は見知らぬ場所にいた。様々な花の香りが入り交じるそこはまるで球体の中のようで、どこを見渡しても曲面。しかし真に不気味なのはその曲面のどれにも満遍なく植物が茂っており、中には何かによって歪められたようなものもあった。非現実的な景色を連続して目の当たりにした少年はあまりの驚異に呆然としたが、直ぐに立ち上がって辺りを見渡した。すると、どこからか声がした。

「Host!!!止まっている場合かい?」

少年が後ろを振り向くとそこにいたのは、例の道端の謎の花だった。

「謎の花だと!?大層な物言いだな!▅▅である私を▅▅▅だとするのはお前を▅▅するのと同義だぞ!!………待て。ここの文脈も侵食されているのか…!」

花はため息をつくような動作をして続けた。

「兎にも角にもだ、お前がヘマこいたせいでこの庭園は無茶苦茶だ。360度欺瞞に満ちた肥溜め同然だ。必ず責任はとってもらうからな」

謎の花はドス黒い色を花弁にうかべながら憤っている。そんな険悪な空気の中、庭園に咲くひとつの花が光を放ち始めた。その花は酷く歪んでいた。

「説明してる暇はない。『剪定作業』のサインだ。始めるぞ。」

謎の花がそう言うと、少年は落ちるような感覚に襲われた。沈む視界、肌にあたる風の圧、地に足がついてないような不安定感。どれも感じたはずなのだが少年はまた別の見知らぬ地に「立っていた」。すかさず謎の花が言う。

「着いたな。剪定作業を行うのはここだ。」

少年は相も変わらず呆然としていた。さらに先程感じた「落ちる感覚」によって、既に少年の精神は限界近くになりかけていた。

「おっと、落ち着けよ。本当に落ちたきゃ落ちてもいいが、そうすると剪定しなきゃなはん花がまた増えるぞ。」

そんなことを言われてもと言ったような顔で少年は花を見る。また花が言う。

「…人間は認識の一歩目として対象に名をつけることから始まるらしいが…。まあ、多少の分類化なら影響はないだろう。俺の名は便宜上『コンパニオン』とさせてもらう。お前の剪定を手伝う助手であり、お前のシノニムの内の一つだ。分かったらさっさと行くぞ。こうしている間にも庭園はまだ収縮を続けている。」コンパニオンと少年が見据えた空は暗雲に満ちていた。

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認知的不協和に咲く花(仮) @MrKIM0613

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