第307話 戦い終わって日が暮れて

 ところが、王の魔族はまだ健在だった。 

 イルマとゼビウスが何度切り込んでも、傷をつけることができない。

 防ぐのが精一杯だった。


 しかも、頼みのアリカタとアントリは戦闘不能になっている。

 ヤスミンやフォルカーが参戦したとしても、守ることはできても、攻撃は難しい。

 それほど、王の魔族は強かった。


 時々、身体全体を振るわせて、鱗を無数に飛ばしてくる。

 その鱗には猛毒が有り、逃げ遅れた親衛隊はあっという間に絶命していた。

 レオンシュタインたちも、防ぐので精一杯だった。


「レオン、あいつをやっつけて、早くノイエラントに帰ろう」


 ティアナが突然、話かけてくる。


「父様が教えてくれた最大魔法が今、できそうなの」


 そう答えると、ティアナは高速詠唱を始める。

 いつものティアナとは違った顔つきに、レオンシュタインは戸惑いを見せる。

 教会の真ん中に直径3mほどの黒い球体が生成される。


 王の魔族は、その球体に驚きを隠せず、ずっと見つめていた。

 そのため、シノが放った破魔矢が2本、身体に突き刺さってしまう。


「GUAAAA」


 その間もティアナの詠唱は続く。

 やがて球体の周りを稲妻が走り始め、球体から無数の稲妻が放電される。

 その光電は、稲妻となってバリバリと四方八方へと落ちていく。

 球体は4mほどの大きさになり、魔族の上で黒々と光っていた。


 イルマやゼビウスは、相手に攻撃を仕掛けるのをやめ、レオンシュタインの側に寄ってくる。

 さらに球体は大きくなり、球体の中で無数の稲妻が発生し、白くなり始める。

 音は既にキーンという甲高い音に代わり、何かが高速で回転しているのが見える。

 魔族は鱗を飛ばしたものの、全てその球体に吸い込まれてしまう。


 魔族は逃げようとするも、ヤスミンが投げた銀のナイフが脚を貫いて歩みが止まる。

 翼が折れており、飛ぶこともできない。


 ティアナの詠唱が終わると、球体は魔族の上で回り始め、やがて周囲のものを吸い込み始める。

 魔族はすでに動くことができない状態に陥りつつあった。


「みんな、逃げろ!!」


 フォルカーは全員を誘導し、教会の外へと逃げていく。

 ステンドグラスや椅子など、次々と吸い込み、球体が大きく膨らんでいく。

 やがて、魔族すらも吸い込んでしまう。


 ただ、不思議なことにレオンシュタインとティアナだけは吸い込まれなかった。

 ティアナはその球体の下に、静かにたたずんでいた。

 魔族は球体から逃れられずに、暴れているけれども、少しずつ光が増し始める。


「何かやばそうッス!! みんな避難です!!!」


 フォルカーの呼びかけでレオンシュタイン以外はさらに遠くへ避難する。

 すると、ティアナは別人のような声を発する。

 以前の村を守るときに話した声のように。


「私たちの幸せを壊す魔族を……滅殺する! 轟雷極滅!!」


 次の瞬間、放電は球体の中に修練し、球体がどんどん縮んでいく。

 音は最初激しく鳴るが、少しずつ小さく修練していく。

 やがて、2m、1mと小さくなり、魔族を押しつぶすと、そのまま小さく、小さくなり、最後は消滅してしまった。


 極滅と言いながらも地味だとレオンシュタインは感じていたが、魔力の使用量は膨大で、ティアナは気を失ってしまった。


 気がつくと、教会の半分は崩壊し、その残骸も全て球体に取り込まれてなくなっていた。

 

「こりゃあ、魔族が恐れるわけッスね」


 フォルカーが戻ってきて、レオンシュタインに被害状況を伝える。


「でも、とりあえず魔族の撃滅を喜びたいッス。はやくノイエラントに戻って、ルカスさんの肉を食べたいッスねえ」


 みんな、教会の跡地に戻って笑顔になる。

 ついに、魔族との戦い、王国との戦いが終結したのだった。


 王国歴165年10月10日 午前3時30分のことであった。



 §



 レオンシュタインは戦後処理をフリッツに丸投げした。


「レオンさんは当主なんですよ。働いてくださいよ」


 あまりの忙しさに、珍しく泣き言がでたフリッツだったが、笑顔が絶えなかった。

 ついに平和がやってきて、みんなの夢を叶えることに取り組めるのだ。


 ユラニア王国、グブズムンドル帝国、レーエンスベルク辺境伯領とは友好条約を結び、通商も盛んにすることが決まる。

 ユラニア王国の宰相はウルリッヒ卿となり、レオンシュタインは話がしやすくなった。


 まあ、王位継承権の問題などユラニア王国はいろいろ大変そうだけれども、それは、その国の人たちが考えるべき事柄だ。

 レオンシュタインは一刻も早く帰国して、バイオリンを弾きたいと願っていた。

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