第264話 連携
ヨシアスがホーエス城に出向いている頃、12日間の進軍で、ノイエラント軍はヴァルデック城に到着する。
王国歴165年8月9日のことである。
ヴァルデック城だけでは足りず、その中庭や広場にも、宿泊場所が設けられる。
城には、病人、高齢兵士、女性兵士が優先して入れられ、高級将校である第1中隊長ゼビウスや第2中隊イルマですら、兵士と同じ場所で寝食を共にすることになった。
レオンシュタインも広場で寝ることを主張したのだが、主任参謀長グラビッツから、
「大将にもしもの事があれば、我が軍は崩壊します。レオン様、どうか自重してください」
と、きつく申し渡される。
そのため、イルマ、ヤスミン、ティアナやシノと共に兵士達の慰問として歩き回るのだった。
ただ、レオンシュタインよりも、同行の4人が目立ちすぎ、
「イルマ隊長、どこまでもついていきます!」
だの、
「ティアナ様のために、この身を捧げる覚悟です!!」
など、慰問にはなったがレオンシュタインはひっそりと陰に隠れるかのようだった。
それでも、気にせず歩き回るレオンシュタインを見て、心ある兵士たちは心から忠誠を誓うのだった。
その夜、ヴァルデック城の大広間で今後の動きについて話し合われる。
「フリッツ殿をシュトラント伯爵、エッシェベルク子爵のもとへ派遣し、中立の依頼をします」
フリッツが大きく頷き、任せろとばかりに腕を叩く。
高速艇4号が境界の町モーリッツに待機しているので、シュトラント領の首都まで往復2日で行くことができる。
エッシェベルク領の首都までは、馬車で往復2日である。
「それが成功したら、辺境伯領近くの町バンデルビットまで進発です」
それを聞いていたレオンシュタインは1つの懸念を示す。
「川がある公国とは連絡が取りやすいですが、北部のアルフレド独立軍とは難しいのではないですか? 砦はともかくホーエス城の付近には川がありませんし」
主任参謀長グラビッツは、ニコリと微笑み、
「明日の朝、その懸念を解消したいと思います」
そこで、作戦会議は終了となった。
§
翌朝、中庭に大きな動物が舞い降りる。
「ヒメル!」
ヤスミンが近づくと、顔を近づけて、クルル、クルルと甘えるように鳴いてくる。
グラビッツはヒメルを指差して、レオンシュタインに説明を始める。
「これが答えです。レオン様、ヒメルを連絡で使うんです。境界の町バンデルビットから、公国のナウウェン砦まで、片道2時間です。アルフレド独立軍が攻撃するであろうホーエス城まで、片道4時間ほどですね」
傍らでヒメルの面倒をみていたグスタフは留意点を述べる。
「1日8時間くらいは飛ぶことが可能です。ただ、それはヤスミンさんが乗る時であって、それよりも重い人なら4~6時間くらいになります」
これで、早急な連絡がとれると、レオンシュタインは安心する。
ノイエラントの重臣達は、誰もがヒメルの重要性に気付いていた。
「ヒメルもノイエラントの一員ですからね。戦争を早く終わらせるために、働いてもらいますよ」
グスタフも協力するために、そのまま従軍することになった。
まず、アルフレド独立軍と連絡を取るべく、ウェイク砦へヒメルが飛ぶことになった。
地図で場所を確認し、とにかく川沿いにあるから見つかるだろうと、ヤスミンはすぐに飛び立っていった。
「相変わらず速いねえ、ヒメル!」
風に吹かれながら、ヤスミンは大声で話しかける。
1時間ほど飛ぶと、下に城が見えてくる。
「これがシュパレン城?」
城をあっという間に飛び越していくため、確認する間もない。
2時間ほど飛んでリベ川のほとりに着地すると、ヤスミンはヒメルに水を飲ませ、積んできた干し草と林檎を食べさせる。
その後、さらに2時間ほど川沿いに飛ぶと、小さな砦が見えてくる。
砦の近くにゆっくりと降りていくと、兵士達が武装をしながら近づいてきた。
「攻撃しないで! ヨシアスはいない?」
ヤスミンは慌てて叫ぶと、その中の一人が攻撃を止めるように指示を出す。
その人は、ヤスミンに近づくと、
「ヨシアスは城に出かけてるよ。もしかして、ノイエラントの人?」
と確認してくる。
「うん、私はノイエラントのヤスミン。あなたはアルフレド?」
「レーエンスベルク伯爵家長男アルフレドです」
互いに驚いたように相手の顔を見つめる。
「でも、驚きました。ノイエラントではワイバーンに乗るんですね」
アルフレドはヒメルの顔を見上げる。
4mを超えるヒメルは、おとなしくヤスミンの側で林檎をついばんでいた。
ヤスミンはアルフレドに主任参謀長が書いた手紙を手渡し、ヒメルに水を飲ませることにする。
「ノイエラント側の作戦は理解しました。その通りに動きます」
「おけ」
滞在は30分に過ぎなかったが、両者共に益があった。
特にアルフレド独立軍は、常に連絡をとれることが大きな安心に繋がっていた。
戦っているのは自分たちだけではないのだ。
「これで、ヨシアスが吉報をもたらしてくれれば」
祈るような気持ちで、ヨシアスの吉報を待っていたのだが、ヨシアスは全く別のものをもってくるのだった。
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