第253話 ジーナ&レベッカの一時帰国
王国歴165年5月17日 午前9時 ブローガング海岸の港にて―――
「帰って来たわよ! クリッペン村……あ、最近はノイエラントだっけ?」
トレードマークのダークブロンドのショートヘアをなびかせたジーナが甲板の上から身を乗り出している。
「姉さん、危ないよ」
長く伸びた髪を結わえたレベッカがジーナをがっしりと支える。
双子の二人だが、帝国での滞在で顔つきが変わったように見える。
ジーナは精悍な顔つきになり、レベッカは優しい雰囲気をまとうようになった。
この船はジーナとレベッカが制作に携わっていたもので、グブズムンドルの最新の技術が使われている。
船長40m、船幅11m、積載量は200トンを少し超えるくらい。
4つのマストと、高く丸みを帯びた船尾と船首に突き出した帆柱状のやりだしが特徴的だ。
「船長、もうすぐブローガング海岸ですぜ。港への入港準備をお願いします」
グブズムンドル出身の副長がジーナに報告する。
この船に乗っているノイエラント出身者はジーナとレベッカだけで、あとは全てグブズムンドル出身の船員だけである。
副長に準備を指示しながら、頭の中で操船の練習計画を立てるジーナだった。
「左舷に港を視認。とりかーじ、少し」
船長ジーナの命令を、航海士のレベッカは復唱する。
「とりかーじ、少し」
自ら舵輪を操作し、船を少しだけ左に傾ける。
「
「乗員は畳帆作業に取りかかれ。安全に、素早く!」
すぐに船の帆が巻き上げられていく。
あとは小さな帆だけで、港に接近するのだ。
ブローガング港は山の陰にあり、西風を防ぐ天然の良港である。
桟橋も設けられており、衝撃を和らげるための木材も見えてくる。
「レオンさんもやるねえ。こんなすごい港を1年もかからずに造るなんてね」
ジーナは驚嘆の思いだ。
規模は小さいけれども、グブズムンドルの港よりも格段に寄港しやすい。
先発した運搬船の船長からも、水深が深くて座礁の心配がないと報告を受けている。
「岸壁まで100m、微速前進」
「ようそろう」
ゆっくりと桟橋に近づき、艫綱が射出される。
桟橋の係留ピッドに巻き付けられ、ついに接岸する。
船から渡り板が降ろされ、桟橋と接続される。
「下船開始!」
今回は積み荷がほとんどないため、下船もスムーズに進む。
逆に港では、米を積み込むために多くの人たちが待機している。
「じゃあ、久しぶりに工房のみんなに会いに行くか!」
ジーナとレベッカは、すぐにレオンシュタインたちが待っている馬車まで走って行き、挨拶もそこそこに工房に連れて行くようせがむのだった。
「親方! お帰りなさい!!」
工房の全員が笑顔でジーナ達を迎える。
二人は一人一人とハグをして、工房を守り続けてくれてありがとうと言葉をかけていく。
工房の外には料理用の鉄板が用意され、すぐに牛肉が焼かれ始める。
「へえ、やっぱりノイエラントは飢饉とは無縁だねえ」
ジーナは目を細めて、肉が焼けるのを待っていたが、レベッカは初めに重要なことを告げる。
「みんな、実は私たちは明日の朝には出航しないといけないんだ。帝国の食糧不足は深刻だからね。だから、今のうちに操船技術を学びたい奴を決めておきたい」
副工房長は、部屋の隅に控えていた20名を紹介する。
ジーナの命令ですでに募集が完了していた。
レベッカはその全員と握手すると、
「今回は1名しか連れていけない。その一人に立候補する奴はいるか?」
と、尋ね、人物の品定めをする。
すぐに、屈強な若者一人が手を挙げる。
「へえ、根性がありそうだね。明日、行くけど大丈夫か?」
「勿論です」
レベッカはもう一度、握手すると、明日の朝、港に来るように申し渡す。
ちょうど肉が焼き上がり、みんなの前に肉とビールが配られる。
肉の焼ける香ばしい匂いに包まれながら、ジーナはジョッキを高く掲げ、乾杯をする。
「肉が旨いねえ! ノイエラント、最高!」
ジーナとレベッカは、牛肉の旨さに舌鼓を打つ。
「で、親方。グブズムンドルの船はどうですか?」
みんなはやはり船のことが気になる。
特にジーナ達が乗ってきた大型外洋船のことを聞きたいのだ。
「ああ、あいつか。あれはな……」
疲れて倒れ込むように眠るまで、ジーナとレベッカは船のことを仲間達に話し続けるのだった。
翌日、レオンシュタインたちが迎えに来ると、工房のあちこちで、みんなが雑魚寝をしている。
ジーナとレベッカは、起こされると大あくびでレオンシュタインの前に進み出る。
「レオンさん。私たち、あの船の造り方を学んできましたよ。この運搬作業が終わったら、すぐに造らせてください」
レオンシュタインは笑顔でそれに応じる。
レネは参考までに船の建造費を尋ねると、ジーナは大金貨250枚(約25億円)と事も無げに答える。
「出してくれるよね」
レネは思わず苦笑いをしてしまうが、うんと頷く。
この船があれば、更に領民の生活を豊かにできる。
「そのためにも、ジーナさん、レベッカさん。身体に気をつけて」
レオンシュタインの言葉に頷くと、すぐに馬車に乗り込んで船着き場に急ぐ。
すでに200トンの米の積み込みは完了しており、副長が桟橋でそわそわしながら二人を待っていた。
「船長、航海士、もう出港ですよ!」
「ごめんごめん」
謝りながら、すぐに船に乗り込んでいく。
「出港! 錨を上げろ!」
ガラガラと錨が巻き上げられ、巧みな操作で桟橋から船体が離れていく。
十分な距離を確保し、
「おもかーじ、いっぱい」
船体が右に移動し始める。
このまま、グブズムンドルまで約1週間。
夏の航海は、海が荒れず、気持ちがよいのだ。
青空と白い入道雲を横目に見ながら、ジーナは離れていく桟橋を見つめる。
見送っているレオンシュタインと工房の仲間達が盛んに手を振っている。
「やっぱり、いいよねえ。私たちのノイエラントは」
ジーナも手がちぎれんばかりに手を振っている。
レベッカは少し涙ぐみながら、みんなを見つめている。
もう桟橋は遠くに去り、海の色も紺碧になり始める。
「
少しずつ帆が広がり、風を力一杯に受けて、船は前に進んでいく。
ザアザア、ザブンと船首が水を切る。
「
レベッカの声に、ジーナは命令を下す。
「外洋船23号、全速前進!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます