第251話 マーニの魔法院

 マーニの 魔法院は朝から忙しい。


「自分の魔力適性を知りたいんです」


 そういった人たちが引きも切らない。

 魔法兵団に入りたい、仕事で使いたい、趣味、など多岐に渡っているが、やはりお金を稼ぎたいこと、何となく格好良く見えることが理由として挙げられている。

 ただ、マーニが院長に就任してから、適性を持った人は10人に1人程度しか見当たらない。


 現在、魔法学院に入学しているのは18名である。

 マーニ、ティアナ、ヤスミンは別として、構成は土魔法の5名、火魔法の3名、水魔法の4名、空魔法の3名、聖魔法3名、闇魔法0名である。

 ちなみにマーニ、ティアナは空魔法、ヤスミンは珍しい闇魔法の使い手となる。


 2つ属性を持っている人もいるらしいのだが、基本的に属性は1つである。

 解呪などの魔法は、基本魔法としてどの属性でも理解することができる。

 ただし、使いこなせるようになるかは、やってみないとわからないらしい。

 基本魔法は無属性になっているのだが、やはり適性があるのだった。


 また、教会の司祭とシスターは全て聖属性もちであり、回復や解毒を施すことができる。


「じゃあ、今日も基本練習からいきますよ」


 全員、学院の裏庭で円になり、真ん中をムキながら手を前に差し出している。

 それぞれが基本の基本練習に取り組むのだ。


「じゃあ、属性の基本をゆっくりと詠唱します」


 それぞれがブツブツと唱え出し、目の前に10cmほどの火や水の塊が現れ、ティアナの前には80cmほどの光球が現れる。


 火属性は火球、水属性は水球、土属性は土球、空属性は光球、聖属性は聖光球、闇属性は闇球が基本である。

 闇球は、その向こうが見えなくなる煙幕のような玉である。


「じゃあ、ゆっくりと大きくしてください」


 みんな10cmほどの球を操っている時に、ティアナは100cmを超える球を作り出せるようになっていた。


(やはりこの子は規格外すぎるねえ)


 思わずため息を漏らしながら指導を継続する。


「そのまま、10分間継続~」


 すぐに終わってしまう学院生もいるけれども、みんなの顔はいつも明るい。

 貴族でなくても魔法を操れることが嬉しいのだ。

 この学院の生徒はみな平民の出身である。


「マーニ先生、今日は少し大きくできました」


 女の子の学院生は嬉しくてたまらないといった表情を見せる。

 毎日、上達していくのが嬉しいのだ。

 また、土魔法の子たちも顔を輝かせる。

 土を掘ったり、固めたるするのは、それだけでも工作のようで楽しいに違いない。


 水属性の子たちは、太陽の光に透かして、綺麗な球の鑑賞会をしているし、火属性の子たちは薪に火をつけている。

 聖属性の子は、擦り傷を作った子の手当てをして喜んでいる。

 シスターになれる素質はあるが、本人は興味がないようだ。


 基本が終わると、それぞれ、訓練したい魔法の練習に取り掛かる。

 基本魔法は何ができるのかやってみないと分からないため、クジを引くような感じで、みんな楽しみながら練習をする。


「ダメかあ」


 失敗することが多い中、ごく稀に、やったあという喜びの声が響く。

 その度に、みんなで一緒に喜びあうのだった。


 この日は、ティアナにとって大きな出来事が起こる。

 ティアナは基本練習を繰り返して、光球を大きくしたり、小さくしたりしている途中、突然、黒いマスクが弾け飛び、もう二度とマスクが作成されなくなったのだ。

 びっくりしているティアナに、マーニは笑顔になり、肩を優しく叩く。


「きっと、魔力が大きくなったんだねえ。おめでとう……と言っていいよね」


 ようやく事態が飲み込めたティアナは、マーニに抱きつく。

 マーニは前と同じように、暖かで微かに林檎の匂いがした。


 それを周りで見ていた学院生たちに驚きの輪が広がっていく。

 黒い仮面を少しだけ薄気味悪く思っていた学院生は多かったのだ。

 潤いを帯びた空色の瞳と長い睫毛、整った高い鼻筋と薄桃色の唇が美しく配置された顔から目が離せない。


 少しだけ口角が上がり、笑顔になると、眩しくなるような気さえする。

 20歳を過ぎたティアナは、少女特有の硬い感じが取れ、ふっくらとした女性らしさを感じるようになっていた。

 それが、さらに美しさと妖艶さが混じり合わせたような感じになっていた。


 周りにいる学院生が固まっているのを見て、マーニはティアナから離れ、目を覚ませとばかりに手を叩く。

 その瞬間、学院生はハッとしたように我に帰る。


「今日からティアナちゃんは仮面を外すことになるから、みんなよろしくね。じゃあ、練習再開!」


 みんなも練習を再開するのだけれども、ティアナが気になって仕方がない。

 結局、練習に身が入らないまま、その日は終了するのだった。


「レオン! ついに仮面が取れたよう」


 村長室に入るなり、ティアナはレオンシュタインに思い切り抱きつく。

 レオンシュタインが抱きつかれたまま訳を尋ねると、あのずっと顔に張り付いていた黒い仮面が出なくなったというのだ。


「そっか、それは嬉しいね」


 そう言いながら、ティアナを離そうとすると、ティアナは逆にギュッと抱きついた手に力を込める。


「何か感想はないのかな? 久しぶりに仮面が取れたんだよ。一言くらいあっても」


「まさに、の一言ですわ」


 後ろからシノが冷たい目で二人を眺め、ピシリと言い放つ。

 手には、レオンシュタインの好きなコーヒーと自分が飲むグリーンティーが湯気を立てていた。

 コトリ、コトリとテーブルにカップを置く


「レオン様に無理やり可愛いと話すよう誘導するなんて、とても淑女の振る舞いとは思えませんわ」


 そう話すと、シノは二人を強引に引き剥がし、レオンシュタインの服を整えるようにパンパンと叩く。


「とんだ災難でしたね。レオン様」


 そういうと、レオンシュタインにコーヒーを勧めながら、自分はその後ろに立つとゆっくりと肩を揉み始める。

 その瞬間、ティアナの目がつり上がる。


「ちょ! レオン! あんたシノに、こんなことさせてんの?」


 両手を腰に当て、怒り心頭といったティアナだった。

 美しい横顔だけに、余計に凄みを感じさせる。


「いや、時々シノさんが強引に……」


 シノはレオンの肩を力強く掴み、話をみなまで言わせなかった。


「レオン様は私のマッサージを喜んでおられます。私以外の女性に触られるのは嫌に違いありませんわ」


 そう言うと、レオンシュタインに顔を近づけ、艶やかに微笑む。


「いかがですか?」


 その瞬間、シノはその場を跳びのき、結局椅子に座っていたレオンシュタインだけが感電することになった。


「レオンのばかあ!」


 そう叫ぶと、全力でアイシャの店に走り去っていくティアナだった。

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