第246話 米が旨いよ
王国歴165年4月7日 午前8時、シキシマ首都ヤマトの頭首館前――
「それでは、これから少しずつ運搬していきます」
マサムネはレネと一番良い運搬方法について話し合っていた。
川を利用しなければ、とても運搬が間に合わない。
バルノー川まで運ぶと、村の運搬船を活用することができる。
6万トンの米の輸送計画はレネによって計画され、それがすぐに実施されることになった。
同時に、クリッペン村ではフリッツがグブズムンドル側と折衝し、船での運搬について計画を話す。
未曾有の運搬計画で、超巨大プロジェクトでもある。
けれども、それが多くの命を救うとあっては、大いにやりがいがあると思うフリッツだった。
「マサムネ殿、心から感謝いたします。では、グブズムンドルから支払いがあるまでは、村の方でお金を立て替えます」
レオンシュタインはマサムネと握手をし、信頼しているのでそちらは心配していないと話す。
それよりも、シノのことをよろしく頼むと、繰り返し3回もお願いされていた。
「わ、わかりました。それでは」
結婚のことを蒸し返される前に、レオンシュタイン一行は村への帰路につく。
馬車と船を利用し、3日で村に到着した。
すぐにグブズムンドル側と折衝が始まり、10kgを銅貨15枚で購入することが了解される。
「レオン殿、本当に何とお礼を申し上げてよいか」
領事館の代表は涙を流しながら感謝の意を表す。
これによって、多くの人の命は救われるのだ。
「グブズムンドルにも米料理はありますので、みな、すぐに食べられると思います。また、ゴート族への偏見も減ることでしょう」
それこそ望むところである。
また、もうすぐ港に外洋船を横付けすれば、さらに時間短縮に繋がる。
村にも多くの働く場所ができる。
「ぶっつけ本番になりますが、グブズムンドルの船を港に誘導しましょう。接岸に使うものは用意してあります。いい機会です。やってみましょう」
グブズムンドル側にも否はない。
というより、一刻も早く運搬したい。
カッター船が走り、すぐに離れて碇を降ろしている船に伝えられる。
「米を6万トン買い付けできた? 凄え話だ! で、港に入港しろってか?」
船長は興奮して使者に確認する。
使者はブローガング海岸の方へ移動するように地図を使って船長に場所を説明する。
「へえ、いつの間に港を造ったんだ? よし! その港に入る練習といこうか」
船長はすぐに碇を上げ、ゆっくりと港の方へと進んでいく。
海岸に近づくに連れて、強かった風が収まり、この港が天然の良港であることがすぐに分かる。
「水深も深いようだ。この港は当たりだぜ!」
船長は船首で海を眺めながら、ゆっくり港に近づくように指示を出す。
風が弱かったおかげか、たった1回で接岸してしまった。
すぐに係留ロープが岸壁に投げられ、岸壁のビット(係留柱)に掛けられる。
すぐに渡し板が掛けられ、船員達が元気よく岸壁に降り立つ。
「やっぱり陸はいいなあ」
思い切り伸び上がりながら、船員達は陸地の良さを噛みしめる。
船長はそれを嬉しそうに眺めながらも、すぐに次の命令を下す。
「船に米を運び込め!」
「おう」
米はバルノー川の集積所で降ろされているため、船からは400mほどの距離しか離れていない。
そのため、馬車だけではなく、人力でも運ぶことが可能だ。
船員達は村から食べ物を差し入れられていたため、力が有り余っている。
あっという間に船の限界、200トンまで積み込みを完了した。
米の検分をしていたフリッツに話をして、船長はすぐに碇を上げることを命令する。
同時にフリッツはグブズムンドルと折衝するために、船に乗り込む。
するすると船は岸壁を離れ、一路外洋に向かっていく。
西風が強い中、船は7日でグブズムンドルのグロッタ湾の港に到着する。
船着き場に近づいていくと、船長は港で働く人々に元気がないことに気付く。
ノイエラントでは、みんなが元気に食べていたため、その現実を少し忘れかけていた船長だった。
(でも、この米があれば)
船長は大声で港で働いている作業員に命令する。
「ノイエラントから米を買ってきたぞ~。米を炊ける大きな釜を用意しろ!」
作業員は目の色を変えて、すぐに釜を3つ用意し、水で満たす。
船が接岸すると、船員はすぐに米俵を担いで、釜の所に移動する。
また、すぐに王宮に伝令が出され、米の買い付けの件について報告された。
王宮からヴィフトが、その運ばれてきた米を確認しようと、船着き場まで全速力で馬を走らせる。
船の近くでは、すでに米俵を陸揚げしており、次々と俵が積み重なっていく。
また、側では毒味をかねて、早速米を炊いているではないか。
「熱! あっつっつ!」
炊けるのが待ちきれず、作業員達は釜の蓋を開けようとしてしまう。
そうして、ようやく米が炊きあがる。
真っ白で美味しそうな匂いが船着き場に広がっていく。
「ライスボールだ! 塩を付けて、すぐに食べろ!!」
火傷しそうになりながらも、作業員達は一心不乱に米を握って、ライスボール(お握り)をつくる。
できるのがもどかしく、すぐにご飯を口の中に入れる。
「熱! いや、旨~い!!」
完成したお握りは塩しかついていなかったが、作業員達は世の中にこんなに上手いものがあるのかと思わせるくらいの味となった。
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