第2章 友好国への援助とノイエラントの発展

第242話 友好国へ援助せよ

「レオン様、グブズムンドルの定期船がやってきました」


 王国歴165年4月1日 午前11時、ブローガング海岸の見張り台――


 グブズムンドルから定期船がやってきたことを発見した、見張り員がすぐに村長宅へ伝令を走らせる。

 その連絡を受け、レオンシュタイン、レネ、フリッツは2台の馬車を準備し、すぐに新しい駐在員の出迎えに向かう。


 現在、建設中の港のさらに東側に砂浜が広がっており、そこにグブズムンドルのカッター船が接近してきた。

 浜辺で寒さに震えながら船の到着を待っていると、8人の漕ぎ手が漕ぐカッター船に4人の駐在員が座り、浜辺に近づいてくる。

 ただ、以前の漕ぎ手より力強さがないように見える。

 砂浜にゆっくりと乗り上げると、新しい駐在員が地面に降り立った。


「ようこそ、クリッペン村へ」


「レオン様。直々のお出迎えに感謝いたします」


 レオンシュタインは、駐在員、漕ぎ手の全員と固く握手をして回る。

 また、漕ぎ手にはチップをはずみ、一緒にレセプションに参加するように促した。

 以前は遠慮していた漕ぎ手たちも、村の食事が美味しいため、参加してくれるようになった。 

 フリッツは待機していた2台の馬車に全員を乗せると、すぐ在外公館に向かって走り出す。


「長旅で疲れたようですね」


 一行は力なく頷く。

 ガタガタと揺れる馬車の中で、レオンシュタインは一行の顔色の悪さに驚いていた。

 それほど、荒れた航海だったのだろうか?


 村の在外公館に着いたグブズムンドルの一行は、荷物を置き、6時間ほど休憩をした後、フリッツに先導され村長宅に歩いてくる。

 レオンシュタイン、レネ、フリッツは新旧の駐在員など全員をローレの店に連れていき、歓迎のレセプションを行った。


「皆さん、冬の航海、お疲れ様でした」


 堅苦しいことは一切無く、レオンシュタインが短い歓迎の挨拶をした後、すぐに乾杯となった。


 乾杯が終わるやいなや、新しい駐在員たちはすぐに食事に手を伸ばす。

 村にいた駐在員達は、その不作法を咎めようとするが、少し会話をすると頭を振って何も言わなくなった。

 それを眺めていたレオンシュタインは、


「みなさん、村の食事は口に合いましたか?」


 と、近くに行き、駐在員の横に座ってしまった。

 新任の駐在員は、姿勢を正して受け答えをする。


「無作法をお許しください。ただ、私たちがこのような食事をするのは久しぶりなのです」


「久しぶり?」


 詳しく尋ねると、グブズムンドルの食糧不足が、かなり深刻な状況にあるというのだ。

 その理由の一つが、今年1月に入ってから王国からの食料輸入が途絶えていることだった。


「国交の長い国へ援助を優先しているとの説明を受けました。結局、価格が3倍になり、5倍になった時点で、取引を停止しました。困窮している国に、この仕打ちはひどいと思います」


 言いすぎたと思ったのか、駐在員は口を噤む。

 レオンシュタインは追加の注文をお願いするために、ローレを席に呼ぶ。

 そして、ローレの耳元でそっと、


「グブズムンドルでは食糧事情が悪いようです。消化にいいものを出してあげてください」


 と呟いた。

 それを聞き、ローレは艶やかに微笑む。


「村長さんの気遣い、嬉しいはずですよ。相変わらず、ス・テ・キ❤」


 と、言うと、片目を瞑って厨房に戻っていった。

 鼻腔をくすぐる匂いが部屋中に漂い、第2弾の料理が運ばれてくる。 

 粥や野菜のスープといった、消化に優しいものが次々にテーブルに並べられる。

 新任駐在員は、その気遣いが分かり、みな感謝の言葉を述べながら、黙々と食欲を満たすのだった。


 レセプションが終わり、駐在員たちを領事館に送ると、レオンシュタインはレネ、フリッツ、ルカス、シノに連絡をし、村長の家で会議を開くことにした。

 辺りは既に真っ暗で、夜の8時を過ぎたばかりだった。

 議題はグブズムンドルへの支援についてである。


「豊作であるユラニア王国からの支援がない今、友好国であるグブズムンドルの苦境を少しでも何とかしたいのです。何かよい方策はないものでしょうか?」


 レオンシュタインの問いかけは難問であるため、4人は思わず腕組みをしてしまった。

 まずはルカスが口を開く。


「村の食料は、村の人口に対して9月の収穫時期までは供給に余裕がある。ただ、グブズムンドルへ支援するほどは……ないな」


「可能性があるとすれば、シキシマです。ただ、今年、不作でしたからね」


 フリッツも難しい顔を崩さない。

 ただ、レネは一つの疑問を話し出す。


「そういえば、9月の収穫が5割だったシキシマは、なぜ食料に困っていないのかな?」


 と、シノに確認する。

 シノは、形のよい顎に手を当てながら、


「それは、おそらく米を籾つきのまま保管しているためです」


「籾?」


 初めて聞く言葉にレオンシュタインは、説明を求める。


「籾とは、外皮に包まれたままのお米のことです。常温でも2年~5年くらいは保存できるのです。シキシマでは余った米を3年分、保存する決まりがあります。昨年の9月は不作でしたが、4月は普通作、1年前、2年前は豊作でした。そのため、今は昨年度のあまった籾を精米して食べていると思います」


 シノは続けて、それ以外の食事についても説明を始める。


「川魚もとれますし、カボチャやキュウリは暑さに強いので、今年も普通に採れたと思いますよ」


「シノさん。シキシマでは1年に何回、米を作っていますか?」


「2回です」


 それを聞き、レネはレオンシュタインに進言する。


「レオン様。グブズムンドルの外洋船の出発を2週間ほど遅らせましょう。その間にシキシマに行き、米の調達を図るのです」


 翌朝の8時だったが、レオンシュタインはすぐに領事館に人を派遣し、食料確保の可能性があるので、2週間ほど船の出発を延期してもらいたいと伝える。

 駐在員の代表は、すぐに船に連絡船を出し、2週間の駐留延長の許可が下りる。

 駐在員は少しでも食糧確保ができればと期待をつないでいた。


 連絡船が出ているお昼頃、レネは今日も集められたメンバーに自分の狙いを伝達する。


「グブズムンドルは、シキシマからある程度の米を確保できるはずです。そのことで、グブズムンドルは食糧事情を改善し、シキシマは米をある程度高く売ることで現金を確保できます。また、グブズムンドルの人たちは、ゴート族への差別が弱まるのではないでしょうか」


「かつ、食糧確保の仲介をしたレオンシュタイン殿の評価が上がり、現金の流通が多くなるシキシマからも感謝されることでしょう」


 フリッツはその考えを是としつつも、懸念材料について考えを巡らしていた。


「レネ。お前らしい、いい考えだ。だがな、シキシマ側がそれを了解するかは分からないぞ。そもそも、備蓄しているのは不作に備えるためだろう」


「我が悪友よ。全くその通りだ。だがな、ここはうまくいく方に賭けたいんだ。失敗したとしても、外洋船が出発するのが遅れるだけで、それほど影響はないさ」


 それを聞き、レオンシュタインは、シキシマに交渉団を派遣することを決定した。

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