第243話 シキシマとの交渉
王国歴165年4月3日 午前10時 シキシマ国首都ヤマトにて――
「レオンシュタイン殿、ようこそシキシマへ。ご無沙汰しておりました」
マサムネを中心に、カゲツナなど、シキシマの重臣達が一堂に会して、レオンシュタイン一行の訪問を歓迎した。
迎賓館はたくさんの花に囲まれ、冬にも関わらず、かぐわしい香りで溢れている。
新しい迎賓館は、建てられたばかりで木の香りが強く、収容人数は1000人だとカゲツナから教えてもらう。
その宴会場に案内されると、村の一行は上座に案内される。
みな、靴を脱ぎ、畳の上を歩いて行く。
ただ、レオンシュタイン一行の座る場所にテーブルと椅子が準備されていた。
横には、マサムネとカゲツナの椅子も準備されている。
「折衷ですな」
フリッツが感想を述べる。
この厚遇には、生活の変化があるのだろうとレネは推測していた。
久しぶりに見たシキシマは、以前とは違い、活気に溢れていた。
露店が建ち並び、食べ物やアクセサリーが自由に売り買いされている。
シキシマで育てられている、ザクロや梨などの果物がたくさん並べられている。
服装も伝統的なキモノだけではなく、シャルロッティが制作したROTTIブランドの服を着ている人を何人も見ることができた。
シキシマに2つの支店を出したと、以前シャルロッティが話していたけれども、かなりの人気のようだ。
何より人々に笑顔が多く見られる。
子どもたちが街を走り回り、飴や林檎を買って、思い思いの場所で食べている。
本屋も先月オープンした花月亭が大人気だ。
中に入ってみると、少年少女文芸や旅行記、観光案内、幸せに生きる20の方法など、たくさんのジャンルの本が棚に綺麗に並べられていた。
子供向けの絵本も置かれている。
「シャル……こんなに多角経営を……」
子供から大人まで、思い思いの本を手に取っているのが見える。
また、中にはシキシマのサムライを主人公にした文芸まであり、台に山積みになっている。
聞くと大人気なのだそうだ。
昼に見た町のことを思い出したレオンシュタイン一行だった。
マサムネが豪快に笑いながら、レオンシュタインに酒を注ぐ。
全員に行き渡ると、マサムネが音頭を取って
「では、乾杯!」
「乾杯!!」
と、大きな声が響き渡った。
レオンシュタインがぐいっと飲むと、ワインとは違った味わいを感じる。
豊穣な果実のような香りが口の中に広がる。
「これはダイギンジョウと申します。なかなか手に入りにくい酒ですよ」
マサムネは上機嫌で話を続ける。
レオンシュタインは、横にいるレネ、シノ、フリッツを省みると、すぐに本題に入る。
杯を前に置き、
「実はマサムネ様にお願いしたいことがございます」
と、じっとマサムネを見つめる。
マサムネは、やや警戒した様子で、
「私が力になれることでしたら」
と、目を細める
「実はシキシマ国が備蓄している米についてお願いしたいことがあるのです。シキシマ国には、今現在、備蓄している米はどれくらいあるのですか?」
マサムネは、やや意表を突かれたように目を見開くが、部下に資料をもってこさせると、正確な値をレオンシュタインに伝えてくれた。
「シキシマの倉庫には、30万人分の米が2年分ございます」
昔から倉庫となっている山に今も穴が掘られ、そこに米を備蓄しているというのだ。
穴の中は温度が10℃前後で、籾米を長期保存するには最適なのだという。
シキシマの人口は、確か約18万人と聞いたことがある。
「実は我が友好国のグブズムンドル帝国で、飢饉が発生しております。外交官ですらまともに食べられないとしたら、子どもたちはどうしていることでしょう。考えるだに、恐ろしいことです。そこで、30万人分の米を1年分、売っていただけないでしょうか?」
「米を……」
レオンシュタインは必死にその重要性を訴える。
「シキシマでは、お米10kgをいくらで販売しているのですか?」
「銅貨5枚(500円)です」
「では、銅貨15枚でグブズムンドルに売りたいと思います。合計で大金貨150枚(約15億円)となりますね」
「大金貨150枚……」
マサムネはしばらく熟考する。
横で聞いていたカゲツナは、巨額の取引に腰が浮きかけている。
「分かりました。輸送費込みで、その値段でいきましょう」
「ありがとうございます。マサムネ殿」
レオンシュタインとマサムネはがっちりと握手をする。
30万人の1年分なら、60万人の半年分、全人口120万人であれば、3ヶ月分だ。
他の食べ物も考えれば、次の収穫まで犠牲は少なくできる。
子どもたちもご飯を食べられるだろう。
それを考えると、レオンシュタインは嬉しくてたまらない。
「今年はルカス殿の指導のおかげで、野菜をたくさん植えることができました。それに、オイゲンさんやアレックさんが上下水道と農業用水路を完成させてくれました。魚を売る人たちもたくさんシキシマに来ていただき、米以外のものもたくさん食べられて、飢饉の影響を全く感じないのです」
マサムネはレオンシュタインの方に身体を向け、声を改める。
「レオン殿、実はこのサナダ・マサムネ、1つのお願いがございます」
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