第241話 船に力を入れようよ
物語は少し時間を戻して、
王国歴165年2月上旬 レオンシュタインの丸太小屋の前にて――
「レオン様。うちの村でも高速船を造りましょう」
グライフ領から帰ってきたフリッツは、村長室に入るやいなや昼食を食べているレオンシュタインとレネにその重要性を力説する。
「さあ、フリッツさん、席にお着きください」
シノが席をすすめ、すぐにフリッツの分のパンとポトフを運んでくる。
フリッツは目の前に置かれたスープにスプーンを入れ、一口だけ口の中に入れる。
煮込まれたベーコンとジャガイモの匂いが口の中に広がる。
外気温が零度以下になっている中、湯気の立つポトフは何より嬉しい。
一緒に昼食を食べながら、先ほどの話を続けていく。
細長い船に帆をつけ何人かで漕げば、4日ほどでグライフ領の首都バウツェンに着けるとフリッツは力説する。
「情報は早いほうが価値があります。ルドルフ卿と密接に連絡を取る上でも、必要だと思います」
ユラニア王国の首都長官であるルドルフ卿の了解を取り付けたのであれば、その方向で推進していく必要がある。
また、バウツェンの近くに港を造ることについても、王国の了解を得ていることが報告される。
「フリッツさん、ルドルフ卿とかなり親交を深めたみたいですね」
レオンシュタインは他国との親交を深めたフリッツの労をねぎらう。
レネもさすが我が悪友だと、ニヤリと笑う。
「港を造るのですから、物資を輸送する船も必要です。馬車も大事ですが、船も大事だと思います。半分は川の力を使うところが魅力です。輸送費用が大幅に減り、利益率が上がります」
フリッツとレネは、しゃべりながらポトフを平らげ、シノにお代わりをする。
シノは笑顔で、はいはいと台所に戻っていく。
フリッツの要望に合わせて、レネは別の要望を述べる。
「クリッペン村でも船で魚をとりませんか?」
農作物がとれなくても、魚をとることで、飢饉の被害を減らすことができる。
魚に関連する働く場も増えるに違いない。
「実は、港の建設予定地のバルデン湾から東に3kmほど行くと砂浜が広がっています。今までは、その場所は放置しておりましたが、今こそ小さな船が活動できる港湾整備をいたしましょう」
そのため、昼食後に船の工房を尋ねることに決まる。
レオンシュタイン、フリッツ、レネが船の工房を訪ねると、ジーナたちの弟子が今日も忙しく働いていた。
「あっ、レオンさん。今日は何か?」
リーダーの男が代表して話しかけてくる。
横には、建造中の川船が一つ、横たわっている。
川の船の需要が落ち着き、今はメンテナンスが仕事のメインとなっていた。
「実はさ、仕事の依頼に来たんだ」
その言葉に、リーダーを始め、従業員は色めき立つ。
すぐにレオンシュタインが高速船の製作を依頼する。
「とりあえずは四艘。これで、定期的に王国のルドルフ卿と連絡を取りたいんだ」
「おお、高速船ですか。で、そこまで何日で着ければいいんですか?」
レオンシュタインから4日と告げられると、リーダーの男は腕を組みながら考え込む。
けれども、不可能ではない。
今までよりも早く、安全に着くのであれば、船屋として挑戦しがいがある。
「分かりました。すぐに設計にかかります」
また、レネから2つの依頼が告げられる。
「1つ目は、グライフ領と貿易を増やすことになった。そのため、運搬用の船を4艘、早急に発注したい。これができれば村がもっと豊かになる。2つ目は、海で漁ができる船がほしいんだ。まず沿岸で魚を取れるようにしていきたい。こちらも、とりあえずは四艘でどうかな?」
景気のいい話で従業員から歓声が上がる。
ようやく船を造れる喜びに工房は沸き立っていた。
従業員たちは、すぐに設計や必要なものの準備に取り掛かるのだった。
「レオン様。川や海での運搬は、官営ではなく民間の会社に移していくのもいいですね」
工房の様子を見ていたレネは、そう提案するのだった。
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