第240話 本当にできんの?
「これでは、先が長いな」
ディーヴァとオイゲンは顔を見合わせてため息をつく。
ただ、レオンシュタインとティアナはしきりに感心し、穴にペタペタとさわるのだった。
ディーヴァたちの様子を見ていたマーニは二人の心配を察し、元気付けるように言葉をつなぐ。
「ディーヴァさん、オイゲンさん。魔力はね、使えば使うほど増えていくことをお忘れ? 限界まで使えば、超回復で明日には1・5倍ほどに増えるのよ」
10の魔力が15になり、22.5、33.75、50.625、76と単純計算で、5日で7倍に増えることになる。
今日のペースで考えると、1週間後には7mの穴が掘れ、1ヶ月もあれば、必要な掘削が終わる計算になる。
「まあ、人間だから計算通りには、いかないさ。でも、どんどん掘れるようになるのは間違いないねえ」
レオンシュタインはその場でオイゲンと話し、1日の作業賃を銀貨3枚(3万円)に決める。
今日であれば、10分ほどの作業で銀貨3枚と破格であるが、魔法を使う人たちに村に定着してほしいこと、後半はそれなりに複雑な作業も入ってくることから、そのように決定する。
ルカスや若者たちは、いい小遣い稼ぎになったと大喜びだ。
若者たちはポーションを飲んで超回復を何度もしようとしたけれども、マーニがそれを止める。
無理な超回復は身体を壊すと忠告され、みんなは村へ帰ることになった。
次の日からは、マーニの提案で作業と合わせて魔力の使い方も訓練することになった。
イメージすることによってに、岩を丸だけではなく、四角く削ることも可能だと言うのだ。
若者たちは、すぐにコツを掴み、レンガのような形で掘りすすめる。
ルカスもすぐにとはいかなかったが、やがて四角に掘ることができるようになった。
「魔法も便利なものだな」
ルカスは感心したように、四角に掘られた岩壁を眺めるのだった。
何日かが過ぎ、作業が進むにつれ、少しずつ運ぶ砂利が足元に積もるようになった。
それを魔法使い達には依頼できない。
運搬する人を手配するために、レネは働き手についてオイゲンに相談する。
オイゲンの水道チーム200名が呼ばれ、すぐに作業に当たることになった。
運んだ砂利は、新たな道を敷設するのに使えるため、作業に無駄がない。
これまで港から村まで曲がりくねった道しかなかったため、オイゲンはそれを真っ直ぐ広い道にするように計画するのだった。
ある日、作業の見学に来たレネとサラは、その様子を見るとレオンシュタインを近くの作業小屋に引っ張っていき、興奮した様子で話し始める。
「レオンちゃん。あの魔法ができる人たちの給料は、上げたほうがいいなあ。銀貨10枚でも高くないと思うよ」
「レオンさん、私もサラさんと同じ意見です。あの人たちは我が村には欠かせない人材になります。給料は少しずつ上げていきましょう」
その理由を尋ねると、レネは道路やトンネルを作るなど、様々な土木作業が楽になること、サラは鉱山開発で活躍するだろうと断言する。
「何と言っても、石を砕かなくても小さくしてくれるんだから、素晴らしい才能だよ。人数が増えれば、鉱山開発の作業効率がどれだけ上がるかわからない。凄いねえ」
レオンシュタインはニコニコしながら、その話を聞いている。
ただ、レネは少しずつ給料を増やしていくことを提案した。
いきなり1日に銀貨10枚では、1ヶ月に20日、働いたとして銀貨200枚(200万円)になる
「いきなりお金を手に入れては、お金に振り回されてしまいます。生活に害が出るかもしれません。少しずつ増やしましょう」
商会で働いていたレネは、お金の恐ろしさを十二分に知っていた。
お金は嫌なことを遠ざけ、夢を叶えることもあるが、人を破滅させることもある。
サラもレネの提案に賛成し、早速、そのことがルカスに告げられる。
けれども、ルカスはいい顔をしなかった。
「今だって、1日に銀貨3枚(約3万円)なんだ。20日働いたら銀貨60枚(約60万円になる。それに対して、砂利の運搬は銀貨1枚だ。生まれつき魔力が使えるだけで、3倍の賃金差はギリギリの線だと思う。サラさんの言う1日に銀貨10枚にしたら、20日で銀貨200枚(200万円)になるぞ。レネさんよりも多いじゃないか」
ルカスは腕を組み、レオンシュタインやレネを真剣な表情で見つめる。
「魔力を使っても、手作業でやっても、同じ労働なら同じ賃金がいいと自分は思う。でなければ、やがて魔法を使える者への嫉妬が差別を生み、やがて排斥に繋がるような気がする。逆に魔法を使える者が増長してしまうこともある。それはノイエラントに相応しくない……と思うな」
それを是としつつ、レネは1つの懸念を話す」
「でも、他の領土が多くの賃金で引き抜きをしたら」
「それはそのときだ。働くときに大事なのは、何もお金だけじゃない。それよりも働く人が大切にされ、気持ちよく働けるかどうかがなんだ。移動する奴は、仕方がない。それよりも、働いている人たちが人生を楽しめる環境作りに力を入れていけばいいんじゃないか?」
さすがに年長者の意見は深い。
レネやサラも、笑顔でその意見に同意する。
レオンシュタインも、ルカスのような人が村にきてくれたことを改めて感謝するのだった。
2ヶ月の作業で、道幅が5mで長さが50mの船着き場がついに完成した。
船着き場にに外洋船が横付けし、木の橋を掛ければ、多くのものをいっぺんに降ろすことができる。
それを馬車で運べば、これまでよりも何倍もの売買が可能になる。
同時にクリッペン村までの道路も完成したため、村長宅まで20分ほどで移動できるようになっていた。
「あとは、船を横付けした時に船体が壊れないように、木のクッションを取り付けよう。あと、繋留のための装置も作らないとな」
やるべき事は山ほどあるのだった。
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