第11話 ユラニア大陸

 王国歴162年9月2日 午前8時、沼の近くの野営地にて―――


 その日は、巡礼団と一緒に歩くことができたレオンシュタインとティアナだった。

 バイオリンの練習も朝に行うため、別々に移動して後から追いかけるということはない。

 けれども、レオンシュタインには一つ心配していることがあった。

 それはティアナが、というより黒い仮面が思った以上に人々から忌み嫌われているという事実だった。


 団長のビコーや妻のルイーズが事あるごとに、巡礼団のメンバーに話をしてくれるのだが、巡礼団のため黒い仮面には最初からよい印象がなかった。

 ほかの巡礼団ともなるとティアナに石を投げつけたり、捕まえて異端審問にかけようと叫ぶ輩まで現れていた。


「レオン……。やっぱり、私って邪魔だよね」


 巡礼団の最後尾を歩いているティアナは、今にも泣き出しそうな声になる。

 そのたびに、レオンシュタインは全力で否定する。

 

「ティア! 全然、邪魔なんかじゃない! ティアがいてくれて凄く嬉しいよ」


 ティアナの隣で、レオンシュタインは殊更に明るい声を出して励ます。

 隣で歩くティアナは、嬉しそうな声でレオンシュタインにお礼を述べる。

 すると近くの農家らしい若者二人が、レオンシュタインたちに話しかけてきた。


「おいおい、黒仮面を被った魔女と服を着た豚が歩いてるぜ。サバトでもあんのか?」


「豚は叩き出して、魔女には鞭でもくれねえとな」


 その瞬間、ティアナは雷の矢を詠唱し、二人の足を地面に固定してしまう。


「レオンシュタイン様への無礼……許し難し」


 2人にゆっくりと近寄っていくティアナの手をレオンシュタインは握りしめ、離れてしまった巡礼団の方へと引っ張っていった。


「ティア、気にしないでいこ」


 巡礼団に追いつくと、二人はしばらく無言で歩く。

 ティアナは、悔しいのと悲しいのとで、ずっと泣きじゃくっていた。


 そのような出来事は、その日だけで5件もあり、さらにビコーの巡礼団でも白い目で見られるようになった。

 二人はその日、巡礼団から離れてご飯を食べ、寝るときも見張りを立てて眠るのだった。


 次の日、二人を案じた隊長のビコーは、一緒に歩くことを二人に提案する。

 隊長は隊列の一番後ろに回り、先頭は妻のルイーズに任せることにした。


 周囲を見渡すと、少しずつ人家が増え始め、鶏の鳴く声が聞こえてくる。

 道に敷き詰めている石も少しずつ増え始め、馬車にはいいのだけれども、レオンシュタインの足には辛くなってきた。


 沈みがちな二人に、ビコーは王国のことについて話すことにした。


「今、歩いているシュトラント領はユラニア大陸の中央に位置している。ユラニア大陸は、おおよそ縦が1000km、横1300kmの逆台形のような形の大陸で、周りは海で囲まれてる。知ってたか?」


 ティアナは頭を振る。

 レオンシュタインは教養として習っていたのだが、ほとんど忘れてしまっていた。


「大陸の多くを支配しているのが北部のユラニア王国で、今の王はランベール二世って名前で、確か60歳だったはず」


「建国時に俺たちが使っている王国歴が始まったのさ。王国の配下となっている領土は王国歴を使用している。当然、シュトラントでもな。今日は王国歴162年9月3日。建国から162年が経過してることになる」


 二人が熱心に耳を傾けているため、ビコーはさらに話を続ける。

 周りの巡礼団はビコーが一緒に歩いているために、二人に嫌がらはできなくなっていた。


「で、だ。シュトラント伯爵領のまわりは、東にグンデルスハイム伯爵領、北東にコムニッツ公爵領、北側はレーエンスベルク辺境伯爵領が隣接してる。その全てがユラニア王国の配下だな」


 すると、そこへレオンシュタインが口を挟む。


「ユラニア王国の配下ではない国はないんですか?」


「そりゃあ、あるさ。大陸の西側にロッツメルブラート国、その南側にはヘレンシュタイク公国が広がってる」


 そのどちらも、ユラニア王国とは中立の関係を保っていた。


「そのほか、シュトラントの南西方向にシキシマという国があり、独自の文化を形成している。そこに住むゴート族はユラニア大陸内で迫害を受けているため、交流はほとんどなく、謎に包まれている」


「ゴート族って呪われた民族でしょ?」


「さあ、どうだろうなあ。俺はゴート族と交流がないから分からん。でも、そう思われているのは確かだ」


 お昼を過ぎても、ビコーは二人から離れず、様々な話を語りかけてきた。

 また、夕食のときにも一緒だったため、二人は安心して食事を取ることができた。


「じゃあ、今日は二人の側で火の見張りをしようかな」


 二人を寝床に眠らせると、ビコーは焚き火に枝を投げ入れる。

 パチパチと火が空に上っていくのを見ながら、レオンシュタインはすぐに眠りにつくのだった。 


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