第238話 定例会議(4月)

 王国歴165年4月上旬 朝の9時 レオンシュタインの丸太小屋1階にて――


「4月の定例会議を開きます」


 3ヶ月に1回の会議は、寒さが和らぐ中、行われた。

 窓の外には枯れた茶色の中に、新緑の緑が地面に見られるようになってきた。

 ユラニア大陸の南方のため、春の訪れは早いのだ。


 会議には村長レオンシュタイン、宰相レネ、宰相補佐フォルカー、外交・会計フリッツ、参謀長シノ、副参謀長グラビッツ、特別参加として建設部門のディーヴァ、水道部門のオイゲンの計8人が参加した。


 まず、オイゲンから提案が出され、1枚の地図を広げる。

 みんな、その1枚の紙の周りに集まり、その中央の書き込みを興味深く見つめる。

 それには、港建設の場所とその規模が詳細に記されていた。


 オイゲンは村の中心から5kmほどのブローガング海岸を指し示しながら説明を開始する。

 ブローガング海岸は、浅瀬は黒いゴツゴツとした岩場が多く、泳ぐにも適していない。

 海岸の西側は高さが120mほどの切り立った山が岬の先まで続いており、山は固く黒い玄武岩でできていた。

 海は浅瀬から20mも沖に行くと、水深30mほどと急に深くなっており、外洋船の停泊が可能だ。


「村の発展のためには港の整備が急務だ。ジーナとレベッカが帰ってくる前に目処を付けておきたい」


 港の候補地は決まっているのだが、作業のやり方が思いつかないと、オイゲンが問題点を説明する。

 

「何回か調査には行ったんだよ。でもな、つるはしの刃が入らないんじゃあ、お手上げなんだ」


 オイゲンは、お手上げだという意味で両手を挙げてしまう。

 黒い玄武岩は予想以上に固いらしく、そのために昔から開発が進んでこなかったと思われる。

 ディーヴァもそれに続ける。

 

「確かに外洋船が入港できるくらいの水深はあるし、西風を山が防いでくれる。でも、山裾を崩して岸壁を造れなければ港の建設は進まないな」


 ディーヴァも悔しそうな表情のままだ。

 他のメンバーも、その玄武岩を何とかする名案が浮かんでこない。

 

「機械に詳しいハラルドさんに、いい案が無いか聞いてみるよ」


 レオンシュタインの言葉で、港の件は次の会議までの継続事案となった。


 次に、ディーヴァが大学の完成の目処について報告する。

 落成は5月1日になるとのことだった。

 村の外れに、60mほどの煉瓦造りの建物が姿を現し、村人達の興味をかき立てていた。

 2階建てで、上から見ると直方体が2つつながってL字型となっている。

 L字型がつながった部分に半円状の講堂が設けられている。

 庭が広く取られており、木々が美しく配置されていた。


「でも、こんな小さな村に大学かあ。考えてみれば凄えな!」


 オイゲンとディーヴァは大学を出ていない。

 そのため、建築について学べるものなら学んでみたいと考えていた。

 知識の塔が完成することは、何とも誇らしいことだった。


 次にフリッツが先月までの人口等を伝達する。


「村の人口は62,851人です。そのうち、18歳以上が43,995人、それ以下が18,856人となってます。人頭税収入は1ヶ月銀0.5枚に減税しておりますので、銀貨21,997枚(約2億円)となっています。大金貨20枚です」


「また、土地所有に関する税金は、1ヘクタール(100m×100m)につき1ヶ月銀0.5枚ですので、およそ30,796ヘクタールの畑があることから、銀貨15,398枚(大金貨15枚)枚となりました。」


 人口は増えたが、人頭税などの税収は微増だ。

 

「その他の収益は、大金貨で表しますと鉱山が56枚、石材7枚、木材8枚、川の運搬18枚となり、合計89枚です。1ヶ月の収益合計は大金貨約137枚(約13億7千万)です」


「支出に関しては、水道等のメンテナンスで大金貨15枚(約1億5000万円)、村の職員への給料が1ヶ月小金貨1枚(100万円)で大金貨3枚(約3億円)、村の事業関連(大学等の建設)で大金貨10枚で、支出の合計は大金貨28枚となります」


「よって、村の1ヶ月の収益は大金貨109枚の黒字となりました。3ヶ月では大金貨327枚(32億7000万円)です」


 フリッツはさらに続ける。


「村の金庫には、現在大金貨1261枚(約126億円)が残っております。グブズムンドルへの借金残高は大金貨1700枚(約170億円)です」


 水晶のおかげで、大きく借金が減ったのは喜ばしい。

 黒字幅も拡大し、前途は明るいけれど、魔族や再侵攻など懸念事項は多い。


「ノイエラントの安心のために、みなさん、今年も働きましょうね」


「はっ!」

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