第166話 シノの攻撃(レオンシュタインはもうフラフラだ)〇

 王国歴164年8月3日 午後6時 シキシマ国の宿屋にて―――


 翌日、レオンシュタイン一行の酒が抜けたのは、夕方近くになってからだった。

 セイシュとかいう発酵酒は、飲みやすいけれども酔いが回りやすい。

 ベッドに入ったのもよく覚えていない。


 レオンシュタインがベッドから起き上がろうとすると、両手が動かない。

 慌てて手を見ると、そこにはティアナとイルマが半裸で眠っていた。


(何か最近、こういうの多いな……)


 裸のトラブルに慣れ始めたレオンシュタインは、冷静に両腕の二人を眺めてぼんやりしていた。

 レオンシュタインが動き始めたため、二人も同時に目を覚ます。


「レオン! おはよう!」


「主、昨日はかなり飲んでいたけど大丈夫か?」


 話しながら二人が距離を詰めてきて、顔が近い。

 しかも半裸のため、やはり動揺して顔を背ける。


「レオン! 1つ聞きたいことがあるんだけど、あのシノって女は何なの?」


「主、結婚したというのは本当か?」


 二人は怒ったような、泣いているような複雑な表情だ。

 レオンシュタインは誤解を解いておこうと思い二人をベッドに座らせ、自分は、さりげなく離れた椅子に座り直す。


「あのね、シノさんと結婚なんてしてない! シノさんは只の案内役だよ!」


 二人は少し明るい表情になるが、まだ完全には納得していない。

 なぜなら、様々な前科があるからだ。

 フラプティンナ姫やハルパのことが思い出される。

 あの傾国の二人を無自覚に引きつけ、それに気付かないレオンシュタインの鈍感さには要注意なのだ。


「じゃあ、シノさんと何にもなかったの?」


「何だよ、何にもって。そんなのあるわけ……」


「ございました」


 そこにシノが突然入ってくる。

 半裸の二人を見て、


「シキシマ国では、殿方の寝床にしのんでいくなんて、と教わっているものですから。目のやり場に困りますわ」


 悠然と相手を口撃し、タタミの上に背筋を伸ばして正座する。


「一緒にお風呂に浸かったとき、レオン様は私の両頬に優しく触れ、『こんな素敵な笑顔の人に側にいてもらいたい』と告白されたのです。私は『ずっと、お側におります』と申し上げました。とても、素敵な時間でした」


 さりげなく嘘を挟みながら、顔を赤らめてレオンシュタインを見つめる。


「一緒に風呂!?」


 レオンシュタインは真っ青になる。


「それは……シノさんが後から勝手に入ってきて」


 ティアナの周りの空気が急激に乾いてくる。


「ねえ、レオン。あなた、シノさんの両頬に触れて告白したの?」


「いや、告白じゃない」


「正直にね……」


 すると、シノが、


「確かにレオン様はおっしゃいました! レオン様、忘れてしまったのですか?」


 と、両手を口の前で合わせ、悲しそうな目で訴えてくる。

 レオンシュタインは、冷静になって考える。

 確かに、結果としてそのような行為になってしまったけれど、……何でそんなことをしたのだろう?


「あ、あの、ティア……」


 ティアナはずっとレオンシュタインを睨んでいる。


「……言いました。でも、聞いて!」


 その瞬間、ティアナはニコっと笑顔になり、レオンシュタインに近づくと、レオンの両肩を叩き、


「この、浮気者!!」


 電撃でガラス窓が吹っ飛び、レオンシュタインはそのままベッドに倒れ込んでしまった。


 §


 次の日の昼に、レオンシュタインは目を覚ますと、側には誰もいなかった。

 少しだけ寂しさを感じながら、食堂に下りていく。


 そこには、すでにレネとバルバトラスがコーヒーを片手に、椅子に腰掛けながら談笑していた。


「おはようございます」


 レオンシュタインの挨拶に、二人はニヤッと含み笑いをする。


「兄ちゃん、あんまり嬢ちゃんたちを悲しません方がいいぞ!」


「レオンシュタイン殿は、一途かと思っていましたがなかなか……」


 何とも答えようもなく、窓際に所在なさげに立つ。

 ティアナたちに悲しい思いをさせたのかと、さすがに自分の行動を反省する。

 気を取り直して、若者達の村への移住について確認すると、昨日のうちにレネとマサムネが大まかな計画を詰めていたと教えてくれる。

 また、すでにクリッペン村に早馬をとばしたとのこと。


「500人程度を受け入れる準備はすでにしてあります。フリッツが早く人数を知ることで、様々な手配をするはずです」


 出発も明日の昼と決まった。


「最終的なことはマサムネ殿と話しておきますのでご安心を」


 その後は、自由行動となった。

 その日は、なぜかティアナ、イルマだけでなく、シノまで姿を現さなかった。

 レオンシュタインは、一人で散策に出かける気にもなれずに、バイオリンの練習をずっと続けるのだった。


 §


 翌日の昼、約束の広場に集まった500人にレネが宣言する。

 

「村に来る方の住宅に関しては、1年間の期限を設け、村が責任をもって提供します。また、村への移住手当として、一人につき銀貨200枚(約200万円)を支給します」


 若者達から大きな歓声が上がる。

 銀貨200枚といえば、やりくりすれば1年以上も暮らせる金額だ。

 レネは、そこにお金を使うとレオンシュタインに報告していた。


「人への投資は、何倍にもなって返って参ります。まして、彼らはクリッペン村でお金を使うのです。実質、景気対策も兼ねています」


 朝のレネの言葉が蘇ってくる。

 レネは一息ついて、さらに決定事項を読み上げる。


「相互に出張所を設け、常に連絡を取り合える体制を作り上げることで合意しました。また、農業指導者を派遣し、シキシマ国の農地改善も進めていきたいと思います」


 その後、すぐに出発の準備が始まる。

 それを眺めていたマサムネは最後の言葉を述べる。

 

「我が民族に神の加護がありますように」


 マサムネが言祝ことほぎを述べ、馬車が次々と出発する。

 こうして、まずは500人の若者がクリッペン村にやってきたのだった。


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