第164話 MVPはマグロ組ってことでいいっすか?
王国歴164年8月2日 午後7時 シキシマ国の行政府 迎賓館にて―――
翌日の夜、レオンシュタイン一行は案内された席についた。
やや古ぼけてはいるものの、シキシマ国の工芸品である
事前に会話や交渉が一切無く、レネは困惑していた。
席の向こう側にいるお偉いさんの表情は一様に渋い。
頼りのシノさんは、後ろの方で控え、レオンシュタインの方を見ようとはしない。
「レオンシュタイン殿、まずは仲間を丁重に葬ってくれたことに感謝申し上げる」
中でも一際オーラを放つ壮年の男性が、重々しい声で答える。
「私は、シキシマ国の長を務めているマサムネと申す」
シキシマ風の名前にあまり馴染みがない一行は、必死で名前を覚えようとする。
「私たちはカゲツナから申し出のあった、村との交流は行わない」
「なぜですか?」
「私たちは差別されてきた民族だ。それが簡単になくなるはずもない。同胞をそんな悲しい目に合わせたくないんでな」
マサムネはレオンシュタインを見据えながら、押しつけるように言葉を発する。
カゲツナは苦り切った顔で、その様子を見つめていた。
すると、レオンシュタインは手を挙げて、発言の許可を求める。
「マサムネ殿、私はゴート族が他の民族にどのような災いをもたらしたのかわかりません。ただ、この1週間、暮らしてみて全く同じだなと思いました」
「同じ……とは?」
レオンシュタインは首を傾げながら、素直に感じたことを述べ始める。
「考え方が違うわけでもない、食べるものが違うわけではない。笑って、怒って、泣いて……。クリッペン村にいる人と同じです。違うのは髪が黒い人が多いことくらいですかね」
「女の人だってそうです。昔は魔女って言われてましたけど、どこが魔女なんですか? 案内をしたシノさんは親切で優しく、とても美しい女性でした。シュトラント中を探してもシノさんより美しい方は稀です」
真顔で話すレオンシュタインに、シノはそっと俯く。
昨日のことを思い出したのか、頬を紅に染めてしまう。
ティアナとイルマは、お前またやったのか? という目つきでレオンシュタインを睨み付ける。
「差別される何物もありません。どうでしょう? 興味のある方は、私と一緒に街をつくりませんか? 賃金もはずみます! そこは、みんなが笑って暮らせる街になるはずなんです。この大陸に住む全ての人が!」
「みんなが笑って暮らせる街? 世迷い言だな」
若造がという雰囲気でマサムネは言葉を吐き捨てる。
「どうしてですか?」
「我々は呪われた民族として、どの国にも受け入れてもらえなかった。結局、誰も住まないこの土地で、ずっと貧しい暮らしをしている。交易もろくにしてもらえず、産業も発展しなかった」
マサムネは苦い表情で語り、周囲の重臣達もみな一様に頷いていた。
レオンシュタインは優しい瞳でその話を聞く。
「ずっと、このままだ。我々の国は」
マサムネは両腕を組み、諦めたような言葉を発する。
レオンシュタインはその言葉を受け入れつつ、1つの提案をすることにした。
立ち上がり、両手をついて、その場にいる全ての人に向かって語りかける。
「ひどい差別だったと思います。ただ、私が話しているのは、ちょっとだけ未来の話です」
「未来?」
「私の街づくりには、あなたたちの力が必要なんです。そして、一緒に幸せになってくれませんか?」
「幸せ?」
マサムネは意表をついたレオンシュタインの提案に戸惑う。
まわりの重臣達もそうだ。
けれども、周りで聞いていた若者達は熱心にレオンシュタインの話に聞き入っていた。
「だって、一人で幸せになるより、みんなで幸せになった方がいいじゃないですか。どこへ行っても笑顔に出会えるんです。嬉しくて楽しくて、たまらない街。明日は何が起こるんだろうとワクワクする街。一人一人が大切にされる街です」
レオンシュタインの声はその場を圧倒していた。
そして、強い声でその場にいる全員にお願いをする。
「そんな街を、……未来を一緒に作ってもらえませんか? 」
その場の全員が静まり返っていた。
呆れたという雰囲気ではなく、その思いを噛みしめようとする雰囲気がその場に広がっていった。
「私はレオン様と一緒に参ります」
シノは立ち上がって宣言する。
両手を身体の前で結び、凛とした態度で話し始める。
「私はもう下を向いて暮らしたくないんです。私は出来損ないの姫巫女なんかじゃない! 私は変わりたい。そして、笑って毎日を過ごしたいんです」
「みなさん、それに向かって挑戦するのに何のためらいがあるんですか?」
話しているうちにシノの瞳から涙がこぼれていった。
今までの悲しい自分を乗り越えようとする固い決意が表れていた。
「みんな、聞いてくれ!」
サムライのヤスハルが、後ろから手を上げる。
「実は俺、ものを作るのが好きなんだ。だから、あの村で3日間、大工になったんだ。めちゃくちゃ、楽しかった!」
その時のことを思いだし、右拳をぎゅうっと握りしめる。
「それに、命をかけなくても仲間ができたし、金も稼げたんだ。仲間はさ、マグロ組の奴らなんだけど、俺がゴート族でも全く気にしないんだ。ヤスハル、お前、上手だな! ヤスハル、飯食いに行こうって……」
少しだけヤスハルは涙ぐむ。
「俺、毎日笑ってた。マグロ組のみんなが、めちゃくちゃ笑ってるから、俺もそうなったんだ。3日間だけど……本当に、楽しかった。自分が本当にやりたいことができたんだ!」
「俺、サムライは尊敬してるけど、命のやりとりをするのは嫌だった。でも、それで食べていくしか出来なかった。でも、もしかしたらあの村で自由に生きてもいいのかな? 自分の好きなことをしていいのかな? だったら、俺はレオンシュタインさんの村に行く!」
きっぱりとヤスハルは話す。
「私もお供させてください」
その場で聞いていた若者たちが次々と立ち上がった。
「レオンシュタイン様、俺でも幸せに暮らせますか?」
近くにいた若者がレオンシュタインに近づいてくる。
レオンシュタインはその手を固く握り締め、
「絶対にできるよ。君が幸せにならなかったら、誰が幸せになるっていうの?」
と笑顔で話しかける。
「素晴らしい友人ができそうですよ。これも、やっぱり幸せってやつですよね」
マサムネを見ながら宣言する。
マサムネは目の前で起こっている光景を眺めながら、小さな笑みを浮かべる。
「どうやら……若者たちは、未来を見つめているようだ。老体がそれを妨げては申し訳ない」
そう話すとレオンシュタインに手を差し出す。
「レオンシュタイン殿、どうか一緒に街づくりをさせてください」
「喜んで!」
固い握手をしながら、マサムネは宣言する。
「ゴート族は、これからレオンシュタイン殿の街づくりに協力しようと思う。さしあたって希望者を選抜し、村に派遣することとする」
「はっ」
そう宣言がなされ、ゴート族が街作りに協力することが決定した。
このことは、それこそ歴史を変えるような大事件だったのだが、その場にいた誰もが、そのことに気がつかなかないのだった。
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