第149話 村の方針決まる
王国歴163年5月1日 午後5時 クリッペン村の村長室にて―――
村長の家は丸太小屋が2つ接続されており、丸太がむき出しの武骨な2階建ての建物だった。
早速、全員で中を詳しく調べ始める。
西1階には入り口があり、応接室とリビングが目に入ってきた。
西2階は寝室となっており、2段の簡易ベッドが6つ置かれていた。
あまり使われていないようで、うっすらと埃が積もっていた。
「換気! 換気!」
手を振りながら、ヤスミンは2階の窓を開けて換気をする。
爽やかな潮風が、窓から吹き抜けていく。
階段を下り、東側の丸太小屋に移動する。
東1階は台所と食事テーブルと6つの椅子が置かれ、さらにその奥は倉庫となっていた。倉庫の奥には、外へ出られるドアが設置されていた。
倉庫の中には、エン麦の粉袋が4つ、ジャガイモの袋が3つあり、当分ご飯には困らなさそうだ。
天井からは、一頭分の豚の干し肉や燻製肉がぶら下げられているため、豚肉の匂いが充満しており、獣臭さを感じた。
階段を上った東2階は、西の丸太と同じく2段の簡易ベッドが置かれており、こちらは若干使われていたのが分かる。
一行は、まず寝室の掃除と布団干しに取り組み、快適な睡眠環境を確保することにした。
晴れているため、全ての布団を外に出し、太陽の光を当てる。
お昼になったので、昼食はジャガイモを塩茹でしたものを食した。
午後は馬の世話に明け暮れ、あっという間に夕方になる。
全員、疲れがピークに達し、エン麦の粥を食べた後は、イルマとゼビウスに寝ずの番をお願いし、眠りについてしまった。
翌朝、食事もそこそこに、7人が1つのテーブルにつき、これからの村の経営について話し合うことになった。
レネがまず口火を切る。
「この村の強みとしては、海があること、川が近く水を得やすいことです。逆に弱点としては、人口が少ないこと、税収がほとんどないことです」
フリッツは続けて、
「まず稼げる場所を作ることが寛容です。稼げる場所は、とりあえず土木工事や木材の伐採、石材の採掘ですかねえ。ただ、開発資金はどこからか借りるしかないですね……」
「木を切り倒し、それで住宅を作れば、格安で住宅を準備できます。土木工事は多岐にわたり必要となりそうです」
そのために、開発資金の確保が急務だとフリッツは力強く話す。
バルバトラスは、寝る場所や食べる場所の重要性を強調する。
「人を増やすには、住環境を整備することだ。ご飯が食べられないとすぐに逃げちまうぞ!」
全く、その通りだった。
今のままでは、誰も村に住みたくないに違いない。
レオンシュタインは手を挙げ、思い当たる人材についてみんなに伝える。
「住居を作る人については当てがある。リンベルクのディーヴァさんに来てもらおう。それと喪男同盟のみんなに遊びにきてくれるよう話してみる」
レオンシュタインは彼らの力を借りることにした。
シャルロッティは、所属していた商業ギルドに別の場所で働きたい人という人が多かったこと、船を作る勉強をしてた姉妹を知っていることを挙げた。
「服飾だけじゃなく、カーテンを作りたいとか、そんな人ぎょうさんおったよ。お金さえ支払われれば、やってくる人は多いと思う。あと、船がほしいなら、あの姉妹にに声をかけるとええな」
勿論、船は必要だ。
バルバトラスは大学の知り合いに言及する。
「昔、一緒に働いていた同僚に、石の専門家、医学の専門家がいたなあ。そいつらに手紙を書いてみるよ。近くの大学へ手紙を届ければ、そのうち他の大学へ連絡してくれる。あと、大学にも求人を出してもらえれば最高だな」
レネは元同僚や知り合いの商人に声を掛けることを提案する。
カネが稼げるなら、すぐにでも来るだろうと笑いながら話す。
昼が過ぎてかなり議論がまとまった。
軽い昼食を挟んでいると、イルマとゼビウスの二人も寝床から起きてくる。
「じゃあ、優先順位を決めましょう」
レネの言葉に全員が話し合い、グブズムンドルへお金を借りにいくこと、人材を早急に集めること、住む場所・食べる場所を作ること、の3つが決定した。
一番難しいのは、お金を借りに行くことである。
この役目に、フリッツが手を挙げる。
「大きなお金を貸してくれそうな場所は、帝国くらいです。私が行ってきます」
喪男同盟にはレオンシュタインが行って話をしてくることに決まる。
護衛としてイルマ、ティアナが同行する。
商業ギルドへの連絡係としてヤスミンが手を挙げる。
そのギルドでは、クリッペン村での仕事の案内、シャルロッティの友達への連絡を行うことになる。
仕事の案内は土木工事、建築、農作業、林業、水産業など多岐にわたる。
一番の売りは、衣食住を保障することだ。
これなら、身一つでやってきても暮らしには困らない。
バルバトラスは、手紙を渡すためギュンター商会や近くの大学へ出向くことが決まる。
「まあ、そろそろ1回、家にも戻らないといけないからな」
バルバトラス家のことは謎のままだ。
レネ、ゼビウス、シャルロッティの3人は留守番になった。
「このままでは、村長宅も守れないため、早速地元から兵士3名、お世話係1名を募集しておきます」
レネが答えると、
「レネ、お前、アイシャさんはいいのか?」
フリッツが尋ねる。
アイシャさんとはレネの奥様だ。
「こんな、寝るにも2階へ上がらなきゃ行けない場所へ、愛しのアイシャを連れてくるわけにはいかないだろ。村がある程度できたらでいい。それまでは、お前ん家で大切に養ってもらえるんだろ」
「ああ」
「じゃあ、安心だよ」
フリッツはレネの愛妻ぶりをよく知っている。
本当は離れていたくないはずだ。
そのため、自分の仕事を成功させなければならないと密かに決意する。
「ところで、我が村にはどれだけお金があるんだ?」
前村長の金庫には、銀貨が15枚入っていただけだった。
それに、現在の手持ちを合わせると、小金貨28枚(約2800万)、銀貨120枚(約120万)となった。
「ま、ある分でやっていくしいかないよね」
現村長の一言に、みんなは笑いながら頷くのだった。
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