フラプティンナの物語(父上が暴走しちゃってます)

第100話 コンサートマスター アルトナルのお願い

 王国歴162年12月19日 午前8時 皇帝宮 謁見の間にて―――


 演奏会の次の日、アルトナルは早朝から皇帝に謁見を申し込んだ。

 

「皇帝陛下、実はフラプティンナ姫のことでお願いしたい儀がございます」


 頭を下げたまま、返答を待つ。


「面を上げよ」


 アルトナルが頭を上げると、皇帝が座っている椅子が目に入ってくる。

 高さが3mもあるマホガニー製の椅子で、細工が細かく施されている。

 金箔を使わないところに王の性格が表れていた。


「願いとは何か? アルトナル」


 国事ではなく、フラプティンナ姫のバイオリンに関することを奏上する。

 

「実は姫のバイオリンの師匠についてです。4月までは私ではなく、レオンシュタイン殿がよいと愚考します」


「ほう、確かにマエストロは素晴らしい腕前だが……」


 皇帝は姫の安全を考え、沈思する。

 豪奢な椅子がぎしっと音を立て、暗雲が立ちこめるような雰囲気が広がる。

 アルトナルは疑念を打ち払うように付け加える。


「陛下。これは吉兆でございます。姫のバイオリンを引き上げられる人物はそう多くありません。その一人がレオンシュタイン殿なのです。幸運にも、お願いすれば、すぐにかなえられることでしょう」


「ふむ……。一考に値するが、姫の護衛は護衛騎士だけで大丈夫か?」


「私もつきましょう。護衛騎士で十分と思いますが」


 レオンシュタインの様子を見るかぎり、力はなさそうに思える。

 ヴィフトからも、レオンシュタインの戦闘は女性任せだったと聞いている。

 皇帝は大きく頷いた。


「分かった。フラプティンナをここへ」


 すぐに使いが出され、姫が足音を立てずに御前にやってくる。

 入ってきた瞬間、謁見の間が輝くような華やかさにつつまれる。


「父上、私に何かご用でしょうか?」


 ガラスの鈴が転がるような可愛らしい声が響く。


「フラプティンナよ、お前はマエストロにバイオリンを習う気持ちがあるか?」


「ございます、陛下。むしろ私からお願いしようと思っていたところです」


 即答し、顔が輝く。

 昨日の演奏を思い出し、全身が震えるような感動がよみがえる。

 

「よし、ではアルトナルよ。早速、レオンシュタイン殿に依頼をしてくるのだ」


「はっ。分かりましてございます」


 すると、フラプティンナは是非、同行したい旨を申し出た。

 アルトナルは安全を考えて、即答を避ける。


 その時、シーグルズル7世は亡き妻ヴィットリアがよく話していたことを頭に思い浮かべていた。


「あなた。王族といえども学友が必要よ。いつも大人が相手では、ロス(フラプティンナの愛称)が可哀想」


「そうか。この戦いが終わったら考えるよ」


 それを叶えることなく妻は亡くなってしまった。

 これが良い機会ではないか。

 皇帝は、王宮の外の世界をフラプティンナに体験させようと決意する。


「アルトナル。一緒に連れていってくれんか?」


「勿論です、陛下。この命に替えましても」


 すぐに、出発の準備が整えられる。

 物々しいものにならないように配慮されていたけれども、帝国騎士団1個小隊が護衛につき、姫の側には護衛騎士が影のように寄り添っていた。


 §


 連絡を受けたケプラビーク音楽院は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「何? アルトナル殿とフラプティンナ姫が来校?」


「我が学園にとって、両者の来校は誉れだが、いったいなぜ?」


「すぐに学院の警備体制を整えろ」


 音楽院がそんな騒ぎに包まれている中、レオンシュタインは相変わらずのほほんと過ごしていた。

 教員の講義を頬杖を突きながら聴いていると、そこに学院長が突然入ってきた。


「レオンさん、すぐに私の部屋に来てくれるかしら」


 有無を言わせずにレオンシュタインを連れて行ってしまった。


 学院長の部屋の前は物々しい雰囲気に包まれていた。

 入り口には二人の帝国騎士が控えており、レオンシュタインを厳しい目で見つめている。

 中に入ると、そこに一際華やかな人物が立っていた。

 

「フラプティンナ姫……」


 思わずレオンシュタインは声を上げる。

 姫は満面の笑みになり、


「レオンシュタイン様、ご機嫌よう」


 アルトナルがそれに続け、声を発するが、顔が緊張で引き締まっている。


「勅命である」


 その場にいる全ての人たちが跪く。

 勿論、フラプティンナもである。


「レオンシュタイン・フォン・シュトラントにフラプティンナ姫のバイオリン指導をお願いする。期間は3月31日までとする」


 勅命であるのに、お願いと言う言葉を使っているあたり、皇帝の性格が表れていた。

 それを感じたレオンシュタインは笑顔で、


「勅命、謹んでお受けいたします」


 と即答する。

 フラプティンナ姫の顔がぱっと明るくなり、抱きつきそうな素振りを見せるがアルトナルに制止される。

 姫は輝く声で、


「レオンシュタイン様、どうぞよろしくお願いします」


 と話す。

 その言葉が終わるやいなや、一行は素早く音楽院を去って行った。


-----


 フラプティンナ姫の物語は、ずっと書きたいと思っていました。


〇フラプティンナ姫の設定イラストはこちら。

https://kakuyomu.jp/users/shinnwjp0888/news/16817330660987565769


最後まで読んでくださり、感謝感謝です。

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