第124話 誰かロマンティック止めて!

「それでは最終試験を始める」


 ケリズ学園が緊張に包まれる。

 今日は伯爵家のケーティトリと男爵家のアントリの決勝戦が行われる日。

 ケーティトリは、学園始まって以来の天才と称されていて、実力も折り紙付きだ。


 ところが、最近アントリが急激に実力をつけてきた。

 彼の炎の魔法は対戦相手を焼き尽くし、その威力は留まるところを知らない。

 実力がここにきて開花した感が強い。


「すごいねえ。アントリくん」


 ティアナは周囲の盛り上がり方にあっけにとられている。

 自分の時とは比べものにならないくらい、会場が盛り上がっている。

 さすが魔法が盛んなお国柄だけある。

 帝国の魔法兵団からも、観戦者が派遣されている。


「そうですね。たくさん見てますね」


 なぜか、アントリは落ち着いていた。

 ティアナとの別れが近づき、自分のことをずっと覚えていてほしい。

 そのためには勝つしかないのだ。


「では、両者前へ」


 互いに礼をして、ついに試験が始まった。


 ケーティトリは水の属性をもち、相性は最悪だ。


「全てを焼き尽くせ、業火!」


 アントリは巨大な炎を出し、相手の周りを包む。

 高さは10mほどもあり、その熱が周りにも伝わってくる。


 けれども、ケーティトリは涼しい顔だ。


「暑苦しいな。瀑布!」


 巨大な滝が炎よりさらに高い場所から落ちてくる。

 大きな音と共に一瞬で炎が消されてしまう。

 やはり一筋縄ではいかない相手だった。


 このままでは、じり貧になる。

 アントリは術式を組み合わせ、3匹の炎の龍をつくり出す。

 その巨大な龍たちがケーティトリ目がけて、殺到する。


「すごい!!」


 周囲から賞賛の声が漏れる。

 一匹でも扱いが難しい龍を3匹も操っている。

 学園の同級生達はその実力に今更ながら圧倒される。


 龍がケーティトリを飲み込もうとした瞬間、巨大な水の巨人が現れる。

 その大きさは、龍よりも遙かに大きい。

 2匹の龍は手で掴まれてしまい、もう1匹は口から出された水によって消滅してしまった。

 掴まれた龍も手から出された水によって、あっという間に消火されてしまった。


 勝利を宣言するかのように巨人が咆哮する。


 アントリは業火や業炎を繰り出すけれども、その巨人を倒すことが出来ない。

 一歩ずつ巨人がアントリに近づいてくる。

 アントリは、後ろを見るとティアナが心配そうな顔でこちらを見つめている。


(そうだよな……)


 アントリの目に決意の色が宿る。


 業炎の壁で巨人を一瞬立ち止まらせ、時間を稼ぐ。

 複数の術式を組み合わせて、巨大な魔力を使う。

 魔力不足で倒れそうになるなか、水の巨人が業炎を乗り越えてきた。


(勝った自分を見せたい)


 その瞬間、水の巨人と同じくらいの巨人が現れた。

 会場は異様な熱さに包まれる。


「馬鹿な!」


 魔法兵団の観戦者が思わず立ち上がる。


業炎の魔神イフリートを召還したのか!」


「死ぬぞ!」


 業炎の魔神は巨大な咆哮をあげ、観衆は耳を塞いでしまう。


「魔神よ、水の巨人を倒すんだ!」


 その瞬間、魔神はアントリを目がけて拳を振り上げる。

 魔法兵団の観戦者から、悲鳴に近い声があがる。


「駄目だ。コントロールできてない!」


 その瞬間、アントリは魔神を睨み付け、大声を上げる。


「馬鹿野郎!! 水の巨人を倒すんだ!!」


 魔神はアントリと目が合った瞬間、さらに大きな咆哮を上げた。


(ティアナさん……)


 覚悟を決めたアントリの横で、魔神が水の巨人に向かっていく。


「馬鹿な?」


 ケーティトリは、あまりの出来事に対応しきれない。

 水の巨人に戦うように命じ、巨大な水柱をいくつも魔神に当てるが、それを全く気にしないで向かってくる。

 水は魔神の炎を消すことはできず、逆に水が蒸発してしまう。


 魔神は大きく拳を振り上げ、水の巨人に殴りかかる。

 じゅおっという大きな音を立てて、水が瞬時に蒸発していく。

 水の巨人がみるみるうちに縮んでいく。


 ケーティトリは瀑布で、巨大な水を魔神に当てるものの、魔神は全く気にしない。

 ついに巨人が全て蒸発してしまった。


 魔神はゆっくりとケーティトリに向かっていく。

 ケーティトリは恐怖に歪んだ顔のまま、動けない。

 審判は危険を察知し、アントリの勝利を宣言する。


「勝者、アントリ!」


 会場が巨大な歓声に包まれる。

 アントリはふらふらする足を叩きながら、その場に立っていた。


「業炎の魔神よ、よくやってくれた」


 優しく話すと、業炎の魔神は大きな咆哮を上げ、ゆっくりと消えていくのだった。


 その瞬間、アントリはその場に崩れ落ちる。


「アントリくん」


 ティアナが全力でアントリの近くにまで走っていく。

 手には、水とポーションを持っていた。


「アントリくん、しっかりして!」


 すぐに魔力回復のポーションを飲ませる。

 魔神召喚の場合、魔力が切れることは死を意味する。

 アントリの目に光が戻ってきたことに、ティアナは安堵の溜息をつく。


「……ティアナさん、見てくれました?」


「うん、凄かった。アントリくんの勝利だよ」


 泣きそうな声でティアナが話す。


「もう、お別れだから……。忘れてほしくなくて」


「馬鹿ね」


 ティアナがアントリを抱きしめる。


「ティアナさん、仮面……取ってもらっていいですか?」


「ん」


 ティアナは、解呪で仮面を取り外す。


「ティ、ティアナさん。」


「なあに?」


「大好きです。ぼ、僕と結婚してください。」


 ティアナの膝の上でアントリは真剣に話す。

 ティアナは微笑みを浮かべ、アントリに語りかける。


「アントリくん、私とっても嬉しい。本気で好きって言ってもらうのは初めて」


 ティアナの目に優しい色が灯る。


「ありがとう、アントリくん」


 アントリは、そのティアナの笑顔が何よりも好きだった。

 それを自分がもたらせたことに、誇りのようなものを感じるのだった。


「じゃあ、この手を握ってもらえますか」


 目の前に差し出された手を、ティアナはじっと見つめていた。


「ごめんね、私、もう結婚する人を決めてるの」


「はは、何となく分かってました。」


 ティアナの横顔は本当に美しいなと思いつつ、アントリの目から涙が零れる。

 それを見て、ティアナはアントリの顔に近づき、おでこにそっとキスをした。


「ティ 、ティアナさん?」


「へへ、アントリくんがすっごく勇気を出してくれたから、私からのプレゼント」


 アントリは、満面の笑みになる。


「次に会う時には、きっと痩せてます。」


「あっ……そこ?」


「そして、ティアナさんに『勿体無いことしたな』って思ってもらえるような、男になってみせます」


「ええ、すごいじゃん。会うのが楽しみだなあ」


「そんな男になっていたら、今度は唇にキスでいいですか?」


「調子にのるな!!」


 二人は顔を見合わせて大笑いした。

 周囲はその二人を見ながら、幸せの波動を感じていた。


「何だか、あの二人、幸せそうじゃない?」


「ええ? もしかして告白!」


「ロマンチック! 私だったらOKしちゃうかも!」


 二人の話は聞こえないものの、会場は新しい恋の予感に包まれる。

 そんな中、二人はゆっくりと会場を去るのだった。


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 アントリくん、頑張りました!

 今回はちょっと会話、多めです。


 〇業炎の魔神を召還してしまったアントリくんのイラストはこちら

 https://kakuyomu.jp/users/shinnwjp0888/news/16817330661444491435


 最後まで読んでくださり、感謝感謝です。

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