第98話 それぞれの運命
王国歴162年12月17日 午前9時 皇帝宮 迎賓の館にて―――
「凄い、晩餐会だったね」
ティアナは昨日のことを思い出し、微妙な笑顔となる。
ヤスミンはケーキの食べ過ぎで、絶賛胸焼け中だ。
「今日、食べられない」
朝食会場には新鮮な魚貝類やパンがずらりと並べられ、ヨーグルトや野菜なども食べきれないくらい準備されていた。
けれども、レオンシュタイン一行はほとんど手をつけることができない。
昨日の晩餐会は急遽、決定したにも関わらず大がかりなものだった。
城の大ホールは1000人は優に入れそうな広さで、調度品も見事なものばかりだった。
有名な絵画や調度品も並べられていたが、それほど多くはなく皇帝の姿勢が良く現れていた。
新鮮な海の幸は勿論、羊の肉も豊富に用意されていた。
国力を表すように、貿易によって購入されたものも多かった。
グブズムンドルは北国故に果物や野菜があまり育たない。
けれども、それを全く感じさせない料理の数々だった。
また、デザートのケーキも充実し、ヤスミンは全品制覇に余念がなかった。
レオンシュタインたちが疲れているだろうと祝宴は2時間ほどで終了したが、レオンシュタインは数多くの貴族たちとも挨拶を交わした。
王族とも冒頭で挨拶を交わすなど、異例の優遇を感じたレオンシュタインだった。
「おはようございます。レオンシュタイン様、よく眠れましたか?」
ヴィフトが颯爽と現れる。
グブズムンドル風のチュニックに青を基調としたスラックスがよく似合っている。
朝からヴィフトは紳士だった。
「昨日は素敵な会にお招きいただき、ありがとうございました」
ヴィフトは笑顔でそれを受けると、そのままテーブル席に着く。
給仕にコーヒーを注文し、本題に入る。
「皇帝より滞在期間の延長を仰せつかりました。レオンシュタインさんたちは3月31日まで滞在費の全てが無料となります」
好意が巨大すぎる。
けれども、ヴィフトの口調は有無を言わせないほどの強さがあった。
断るなということなのだろう。
「ヴィフトさん、本当にありがたい話ですが、どうしてここまで?」
レオンシュタインが敢えて理由を尋ねると、ヴィフトは少しだけ真面目な顔になる。
そこに、コーヒーが運ばれてきて、その香りがテーブル全体に漂う。
コーヒーを一口、口に含むと、ヴィフトは理由を説明してくれた。
それは、帝国では中央大陸の国々とのつながりが薄いという事実だった。
その責任者であるヴィフトの言は重い。
国交を結んでも、ユラニア王国の貴族との繋がりができないことが目下の悩みだった。
そんな中、シュトラント伯爵家との繋がりは何としても保っておきたいとのことだった。
「そこで、これからの過ごし方について、こちらから提案させていただきます」
バルバトラスにはペルトラン大学の臨時講師、また、同大学の短期留学生としてフリッツとヤスミン、レオンシュタインはケプラビーク音楽院への短期留学、ティアナはケリズ学園魔法学部への短期留学が提案された。
そして、イルマには、
「えっ? 帝国騎士団への仮入隊!? 凄いんだけど!」
「ヨークトル殿の小隊へ入隊です。最強との呼び声が高いです」
ヴィフトはそうイルマに伝えると、全員の方に向き直り、意思の確認をする。
誰も過ごし方を決めていなかったために、それもいいかという雰囲気が広がる。
嫌になったら別に止めても構わないことから、反対意見はでなかった。
「それでは、これから手続きに入ります。明日には、この紙にかかれた場所へ行って手続きを完了させてくださいね」
そのあと、コーヒーがなくなるまで雑談をすると、ヴィフトはすぐに業務に戻っていった。
「じゃあ、みんなのやりたいことを確認しますか」
レオンシュタインは、全員の気持ちを聞いておきたかった。
バルバトラスは、本が読めるため大歓迎らしい。
フリッツは領地経営学について学びたいという意向を示していた。
イルマは大歓迎だし、ティアナも魔法を極めたいらしい。
ただ、ヤスミンだけは戸惑っていた。
困惑しているヤスミンを見て、レオンシュタインは、
「じゃあ、僕はしばらくヤスミンと一緒に大学を見て回るよ。何だか楽しそうだし」
と話す。
ヤスミンは、ほっとしたようにレオンシュタインを見て頷く。
「じゃあ、しばらくは別々になるけど、朝と夜は一緒にご飯を食べようよ。寂しいからさ」
レオンシュタインの言葉にみんなは笑顔で答える。
そして、この留学がそれぞれに大きなものをもたらすのだった。
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