第77話 城門突破
王国歴162年11月5日 夜8時 シュバンガウの街 境界の城門にて――
城門には、今のところ2人の衛兵しか見張っていない。
その二人の死角にフリッツは馬車を停める。
バルバトラスは安堵と疲労のため、その場にへたり込んでしまった。
肩で息をしている。
「バルバトラスさん、本当にありがとうございます」
レオンシュタインが馬車の荷台からお礼を述べる。
バルバトラスは水を飲みながら問題ないと平気な顔で右手を挙げる。
フリッツは全員を馬車の荷台に誘導し、突破する方法を話し始める。
「女性陣には荷台の隠し箱に入ってもらいます。見つかると、面倒なことになりますから。男性陣は寝ていてもらいましょう」
女性陣が隠れている間、レオンシュタインが箱の中を調べられるのではないかと懸念を述べる。
その懸念をフリッツは認めつつも、その時は強引に突破するしかないときっぱりと話す。
「私が言い含めます。ここは時間との勝負です」
フリッツはそう言うと、すぐに馬車を出発させる。
ガラガラと大きな音を立てながら、馬車は門の近くまで走っていく。
フリッツにしては珍しいほどの速さだった。
「そこの馬車! 止まれ!!」
衛兵が馬車を止める。フリッツは青ざめた顔で衛兵に話しかける。
「城が大混乱です。ヘレンシュタイクが攻めてきたとのことで、すぐに逃げてきました」
衛兵は半信半疑だ。
「ヘレンシュタイクが攻めてきたというのはおかしい。攻めてきたなら我々に伝令がないわけがない」
「荷台の中を見せろ!」
フリッツは素直に取り調べに応じる。
荷台にはレオンシュタインとバルバトラスが座っている。
「一人は怪我をしています。早く医者に診せようと急いでいます」
フリッツはレオンシュタインの傷を見せながら衛兵に説明する。
すると、後ろから馬蹄が響いてきた。
城からの伝令だろう。
フリッツは内心、冷や汗をかいていたが、のんびりと答えるように心がける。
「行ってよいでしょうか?」
通行量を手渡すと、行けという合図をされる。
すぐにフリッツは馬車を走らせた。
同時に、伝令の馬が城門に到達する。
「そこの馬車! 待て! 止まれ!!」
馬上の伝令が大声で怒鳴る。
その声に焦った衛兵は、走って馬車の前に出ようとする。
その瞬間、フリッツは馬に鞭をあてた。
がくん、という衝撃と共に馬車はものすごい速さで前に進んでいった。
「待て! 止まるんだ!!」
けれども、あっという間にフリッツの馬車はディベルツの街に入っていた。
越えてしまえば、逮捕することはできなくなる。
馬上の伝令は忌々しげに、フリッツの馬車を眺めていた。
どうやら追ってこないことを確認すると、フリッツは馬車の速度を落とす。
「ごめんな。無理させて」
フリッツは愛馬に何度も謝っていた。
その度に、馬は鼻息荒く頭を振る。
まるで、いいんですよと言っているかのようだった。
そのまま、フリッツの馬車は、ゆっくりとディベルツの街を進んでいった。
午後9時を過ぎており、人通りは、ほとんどなかった。
その頃、城ではようやく混乱が収まりつつあった。
負傷者がいないのは不幸中の幸いだったが、ゲオルフの機嫌は最悪だった。
目が覚めたのは5分ほど前で、頭がかなり痛んでいる。
「逃げられた、だと? この無能!」
ゲオルフの頭には包帯が巻かれ、治癒師が治療を続けている。
伝令に向かってグラスを投げつけると、伝令は鎧がワインまみれになる。
芳醇な香りがホールに広がる。
「私に、ここまで恥をかかせたのだ。ただでは済まさないぞ!」
ゲオルフの目が血走っている。
別にレオンシュタインが酷いことをしたわけでもないのに、ひたすら怒り狂っていた。
今までは何でも自分の思い通りになったのに、今回は一人の女も手に入らなかったという事実が、怒りに拍車を掛けていた。
「刺客を放て!!」
執事は軽く頭を下げ、提案する。
「ゲオルフ様、刺客はあやつらの顔を見ておりません。まずは、馬車を探索してはいかがでしょうか」
ゲオルフは少し考えてから、それを許可する。
そして、もう少しで手に入ったティアナのことを思い浮かべる。
今までに見たことも無いような美女だったと煩悶する。
それに、あとの二人も自分のものにできていないことが信じられない。
全員まとめて、いつかは自分の奴隷にしてやると、暗い情念を燃やしていた。
「レオンシュタインめ、このままですむと思うなよ!」
城の窓から街の方を睨み付け、そう自分に誓うゲオルフだった。
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