第44話 魔法で模擬戦
王国歴162年9月18日 9時頃 魔法院の受付前にて―――
翌日のこと、魔法院の入り口に知り合いが立っていることにティアナは気付いた。
その顔は忘れようにも忘れられない。
「林檎売りのおばあさん!」
ティアナは小走りで、おばあさんの側に駆け寄っていく。
まじまじと顔を見つめ、間違いではないと確信する。
おばあさんも振り向きざま、にっこりと微笑み、ティアナに話しかける。
「ティアナちゃん、来たんだね」
そう言うと、おばあさんはティアナを優しく抱きしめる。
おばあさんからは、甘い林檎の香りがする。
そのままの状態で、おばあさんはゆっくりと語りかける。
「私はマーニ。この魔術院の副院長です」
ティアナは戸惑いながらも、何となく納得するものがあった。
ただの林檎売りに、あの魔法は不自然だった。
「また、ガマ女が! あら、副院長、ご無沙汰しております」
ユーフォリアが露骨に態度を変える。
彼女らは、上司にはとことん弱く、卑屈な態度になってしまうのが常だった。
マーニはユーフォリアの言葉を聞き
「ガマ? それはティアナちゃんのこと?」
冷たく尋ねると、理由をつけながら長い言い訳を始める。
素顔を見せたくなくて仮面をつけているのは怪しいとか、様々な理由を語っていたが、ただの嫌がらせだとマーニは気付く。
「あなたたちは相変わらずね。狭い世界で狭い仲間とだけ
けれども、取り巻きの心には全く響かない。
逆に、どうやって副院長に取り入っただの、やることが汚いだの、ティアナに絡んできた。
その様子を見ていたマーニは、ため息をつき、ティアナとの魔法を比べを提案する。
突然の提案にユーフォリア一行はざわめくが、ユーフォリア自身は望むところと受け入れた。
「その女には、すぐにこの魔法院から出て行ってもらいましょう。伝統ある魔法院に新参者は必要ありませんもの」
マーニは全員を中庭に誘い、基本の球を出すように話す。
ユーフォリアの連れは、それぞれ大きさが10cm程度の火球を出す。
連れの2人は得意満面だ。
続いて、ユーフォリアは魔法を唱えると、空中に30cmくらいの水球が現れる。
連れは口々に賞賛の声を上げる。
「さすがユーフォリア様です。このような魔力の持ち主は、なかなかいませんわ」
それを軽く聞き流し、マーニはティアナにもやってみるように話す。
ティアナはいつものように、まず50cmの光球を空中に出現させる。
「えっ?」
ユーフォリアたちは、戸惑いの表情を浮かべる。
明らかに自分たちを
マーニは3人に語りかけた。
「あなたたちはティアナちゃんの足下にも及ばないよ。嘗めた口調を改めるんだね」
そういいながら、ティアナに向かって謝罪の言葉を口にする。
「ごめんね、ティアナちゃん」
「いえ、そんな。私、気にしてません」
両手でとんでもないと手を振りながらティアナは答える。
そこにユーフォリアが口を挟む。
「納得できません。球の大きさだけじゃ実力はわかりませんわ」
3人とも口々に不満を漏らした。
マーニは、どうすれば分かるのか逆に尋ねると、ユーフォリアは模擬戦を提案してきた。
危険を考慮してマーニが断ると、
「あら? 副院長、そのガマを
高慢な顔で断言してきた。
自分の実力を冷静に判断できない3人にマーニは何と言っていいか迷っていると、
「いいですよ。相手を傷つけないようにしますから」
ティアナは一歩前に出る。
マーニは軽く頷くと、二人に防御の魔法を掛ける。
「どちらかが降参を言ったら、そこで終わりよ」
そういって試合開始を宣言する。
ユーフォリアはすぐに水の矢を繰り出そうと前に出ようとするが、足が動かない。
「何で?」
よく見ると足に魔法の矢が刺さっている。
戸惑っていると、ユーフォリアの周囲が黄色に輝き、一瞬、目が眩む。
「
ユーフォリアのまわりで空気を
大きな光の柱が出現し、そのまわりに無数の電気スパークが走る。
マーニのかけた防御魔法がガリガリという音を立てて、崩壊していく。
衝撃によってユーフォリアは倒れてしまった。
ゆっくりとティアナはユーフォリアに向かって歩いて行く。
空気はビリビリと震え、地面の焦げた匂いが強く漂ってくる。
ユーフォリアの近くで立ち止まると、再度詠唱を始める。
空中にまた無数のスパークがきらめき、空気が乾いていくのが分かる。
黒い仮面に気圧され、ユーフォリアは後ずさりをする。
何か言おうとするのだが、恐怖で口が動かない。
「そこまで!」
その瞬間、ふっと空中から雷光が消えてしまう。
ユーフォリアはその場に倒れたまま動かなくなってしまった。
仲間たちが駆け寄り、かついで救護室へと走り去っていった。
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