第54話 喪男たちとの別れ

 王国歴162年10月13日 朝6時頃 宿の部屋にて―――


 結局、リンベルクには1ヶ月近く滞在し、季節はあっという間に10月を過ぎていた。

 ティアナは解呪の仕事をし続けたことから、かなり魔力が上がっていた。

 しかも、マーニから教えて貰った雷の嵐ゲヴィッターも使いこなせるまでになった。


 イルマはイルマで、2日に1回は警邏活動に出かけていた。

 後半は盗賊と遭遇する機会が減り、あまり稼げないとぼやいていた。


 リンベルクを離れる前日に、レオンシュタインたちは部屋で全財産を数えることにした。

 ティアナは銀貨64枚(約64万円)を、イルマは銀貨48枚(約48枚)を机の上に置く。


「リンベルクはお金が稼ぎやすかったね」


 イルマはテーブルの上を見ながら、感想を漏らす。

 生活費の残りの銀貨11枚と大銅貨4枚も机に置き、レオンシュタインが全てのお金を数えていく。


「所持金は銀貨123枚(約123万円)、大銅貨が4枚(約4000円)になりました!」


 期せずして3人から歓声が上がる。

 宿の支払いは1日銀貨2枚のため、31日間の滞在費は銀貨64枚となった。

 それを差し引いても、所持金は銀貨59枚と、滞在するよりも増えていたのだ。


「レオン、これなら1ヶ月以上は大丈夫だね」


 ティアナは、ほっとしたように胸をなでおろす。


「これからも節約は必要だな。主の旅はあと10ヶ月も続くからね」


 イルマは顔を引き締めながら呟く。

 レオンシュタインは改めて二人に礼を言い、出発を宣言する。

 度の準備をし、宿の主人に支払いとお別れを済ませ、玄関から外に出て行くと宿の前にマーニと複数の男たちが立っていた。


 ティアナはマーニと対面し、心を込めてお礼を伝える。


「マーニさん、本当にありがとうございました」


 マーニは笑顔で何でもないことを告げ、副院長を今日辞めてきたことを話す。

 どうやら本格的に田舎に引きこもるらしい。


「林檎やプラムを育ててくらすよ。人間相手は、もうまっぴらだね」


 うんざりした顔でティアナに話す。

 ティアナはそっとマーニに近づき、そしてぎゅっと抱きしめる。


 その一方、レオンシュタインはむさ苦しいメンバーに囲まれていた。


「レオンちゃん、水臭いぜ」


 ケスナーがレオンシュタインの頭を軽く小突く。

 人形制作のオリバー、画家のクンツはレオンシュタインに近づき、名残を惜しむ。


「俺にお礼を言わせないつもりかよ」


 ディーヴァが照れくさそうな表情で前に歩み出る。

 銀貨100枚(約100万円)の寄付は、ディーヴァにとって衝撃的なことだった。


「レオン、お前のおかげで俺も希望が見えてきた。残り銀貨80枚、なんとしてでも稼ぐからな」


 そう言うと、見えないまま手を伸ばす。

 レオンシュタインはその手を、全力で応援する気持ちを込めて強く握りしめた。


「次に会うときを楽しみにしてる。ディーヴァ」


 そういうと軽く抱きしめ、肩を叩いた。

 後ろからはハラルドが申し訳なさそうに、レオンシュタインの前に出てくる。


「レオン、懐中時計はまだできてないんだ。次に会うときまでには作っとく」


 レオンシュタインが気にしないと握手をすると、横からルカスが蔓で編んだ籠を差し出す。


「レオン、この中に俺の作ったジャガイモのパンケーキが入ってるんだ。途中でみんなで食べてくれよ」


 レオンシュタインはずっしりと重い籠を受け取る。


「イルマさんにも、よろしく言っておいてくれ」


 ルカスはその一言を付け加えるのを忘れなかった。

 でも、その様子をイルマはしっかりと観察していた。


「何? ルカスさん。私に餞別?」


 ベールを付けたイルマが笑顔で近寄ってくる。


「そうなんだ。自分のジャガイモを忘れてほしくないから、今度はパンケーキにしたんだ。美味しいよ」


「え、すごい楽しみなんだけど」


 そう言うと、イルマはルカスに手を差し出した。

 ルカスは一瞬怯んだが、笑顔でイルマの手を握る。


「ありがとう、ルカスさん」


「イルマさん、出会えて嬉しかった」


 最後にアルベルトがシルクハットを被ったままレオンシュタインに近づいてくる。


「レオン、オイゲンは会えないって残念がってたぞ。何でも水道の仕事が舞い込んだって、急遽、とんでったよ。絶対にまた会おうって伝言だ」


 そう言うと、シルクハットを手に持ち替え、何もないことを確認させる。


「レオンの前途に」


 アルベルトはそう言うと、シルクハットを空中に投げ上げる。

 すると、その中から白い鳩が3羽、空中に飛び出していった。


「また、会おうぜ」


「せえの!」


「喪!」


「喪!」


 同盟の合図を一糸乱れずに繰り出す。

 感動的な場面なのだろうが、はたから見ているとヘンテコな集団にしか見えない。

 でも、レオンシュタインにとっては初めての友人といえる大切な男たちだった。


「また、会おう!」


 レオンシュタインは大きく手を振り、大切な仲間たちとの別れを惜しむのだった。


 レオンシュタインが去って行った後、


「なあ。……あいつ、女連れじゃね?」


 ハラルドがポツリと呟く。

 みんながあえて触れていなかったことに、ケスナーは突っ込みを入れる。


「おいおい、だとしたら喪男同盟にふさわしくないんじゃ」


 ケスナーの言葉をディーヴァがやんわりと否定する。


「 別に美人の女連れでもなかったんだろ。いいことにしとけよ」


 周りのみんなも頷き、納得する。

 イルマの素顔を知っているルカスは、会えなくなるのが嫌なので黙っていることにした。


「じゃあ、これからも喪男同盟、やっていきますか」


「うい~す」


 そう言って彼らも日常の中に戻って行くのだった。


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