第39話 甘い時間

 王国歴162年9月13日 朝11時頃 リンベルクの屋台(椅子)にて―――


「ねえ、レオン。この街の特産はシュニーバル(雪玉のような揚げ菓子。砂糖がまぶされている)ですよ。食べていきませんか」


 ティアナが提案する。


「私も久しぶりに甘いものが食べたい気分だ」


 ウインクをしながら、イルマも答える。

 そこで、目に入った屋台でお菓子を3つ注文する。

 屋台の側に常設している白い椅子に座り、町並みを眺めながら、お菓子の到着を待つ。


 リンベルクの市場マルクトの広場は、こぢんまりとした佇まいだが観光客も多く賑やかだ。

 喫茶店、軽食のお店、川魚を売る店がたくさん目に入る。


「お待たせいたしました」


 ウェイターが3つのお皿に丸い物体を乗せて運んできた。

 まさに、砂糖をまぶした雪玉が3人の目の前に現れる。


「本当に真っ白ですね」


「何だか食べづらいな」


 ティアナはシュニーバルを崩そうと球と格闘しているが、イルマはそのまま口に持っていく。

 レオンシュタインも球体を少し壊して、そのかけらを口の中に入れる。

 カリカリという歯ごたえも楽しい。


「美味しい」


 三人は同時に叫ぶ。

 油はそれほどしつこくなく、カリッと揚げられた生地も美味しい。

 砂糖も細かい粉末状で満遍なくまぶされている。


「シュニーバル(雪玉)とは、よく言ったものですね」


 ティアナがお菓子の皿を持ち上げ、まじまじと眺める。

 3人がシュニーバルと格闘しているうちに、お菓子屋の店先が賑わってきた。

 目当ては、一際目を引く二人の美女だ。

 近くに座った若者達は口々に驚愕の感想を述べていく。


「おい、あの二人を見たか?」


「うん。今まで出会ったことがないレベルだよ」


 座っているテラス席の周りはもう満席になってしまった。


あるじ、人が増えてきたな」


「そろそろ移動しましょうか?」


 3人ともシュニーバルを食べ終え、手が砂糖だらけになっていた。

 そのレオンシュタインの手をティアナがそっと握る。


「レオン様、相変わらずお行儀が悪いですね」


 ティアナは、レオンシュタインの両手を濡れた布で拭き、砂糖の白い粉を拭ってしまう。

 そして、口の周りも拭こうとしてきた。

 周りに人がいようがいまいが、全く気にしない癖がティアナにはあると、レオンシュタインは思う。

 そのため、自然に周りを煽ってしまうことがよくあった。


「口は自分で拭くよ」


 やんわりと拒絶を示す。

 けれどもティアナは何を言うのかという風に、顔を近づけ、口の周りをゆっくりと拭き始めた。

 笑顔が眩しく、レオンシュタインは目のやり場に困る。


「さあ、取れました」


 と言って、さらににっこりと笑顔になる。


「眩しい。眩しいぞ」


「どうすれば、美人にあんなことをしてもらえるんだよ」


 嫉妬の渦が渦巻いていた。

 ティアナが終わったと思ったら、次はイルマが接近してくる。


「主、私は主好みの顔ですか?」


 ぽすんとレオンシュタインとティアナの間に割り込んで、顔を近づけてくる。

 しかも、ちゃっかりとテーブルの上のレオンシュタインの手に自分の手を覆い被せ、軽く握ってくる。


「き、綺麗だと思いますよ」


 ドキマギしながらレオンシュタインは答える。

 まさか、こんなに妖艶な美女になるとは全く思っていなかった。

 大人の色香まで感じさせるイルマは、ティアナとは別方向の美しさを持っていた。


「主。好きか嫌いかで答えてください」


 さりげなくレオンシュタインの両手を自分の手で包み込んでしまう。


「嫌い、なんですか……?」


 睫毛を伏せて、憂いの表情を見せるイルマ。

 慌てて、手を振ろうとするが、イルマががっちりと握っていて離さない。


「そんなことないよ、すごく綺麗だと思う。うん。びっくりしたよ」


 素直に感想を述べるレオンシュタイン。

 その言葉にイルマの目が輝く。


「そうですか。そんなに好みでしたか。良かった」


 さらに顔を近づけてくるイルマから逃げようとするが、手は相変わらず握られたままだ。

 それを見ていたティアナは、怒りのボルテージが上がる。


「ちょっと、レオンが嫌がってるよ!!離れなさい」


 そう言われてもイルマは全くひるむ様子がない。


「あんたはどうなの? 『お行儀が悪いですね』ってお母さんかよ!!」


「そっちこそ『嫌い、なんですか?』ってあざといのよ!」


 一触即発の状態になり、もはや事態の収拾はできそうもない。

 そう思ったレオンシュタインは、脱兎のごとくその場を走り去った。


「あっ!」


 二人は慌ててレオンシュタインの後を追う。

 レオンシュタインは宿への道を急ぎながら、もう少し平和な日常が欲しいと願わずにはいられなかった。


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