第3章 リンベルクの街(美人のお姉さんは好きですか?)

第36話 リンベルク観光

 王国歴162年9月12日 17時頃 リンベルクの街にて―――


 門をくぐると目の前に4つの尖塔を持ち、壁は赤茶けた煉瓦で作られている巨大な教会が見えてきた。

 尖塔の下には四方にアーチ型の窓を備えた立方体の構造物が積み重ねられており、それがこの教会の特徴となっている。

 その下にはステンドグラスの窓を持った放射状祭室のアプス(後陣)が張り出している。

 レオンシュタインは遠くから眺めながら、その素晴らしい作りにやたらと感動していた。


 ティアナの情報によると、リンベルクは大学都市かつ大司教の都市と呼ばれ、ビールが美味しいことで評判の街らしい。


「この街は、人口約15万人の中規模中心都市。クロートローテンよりは小さいですけど賑やかですね」


 まわりを見渡しながらティアナは答える。

 確かに賑わいと明るさは、首都では感じたことのない開放感を伴っていた。

 中心街まで歩くと、一際、人々が集まっている場所が目につく。


「ここが有名な中州に立つ市庁舎ラートハウスか」


 市庁舎は2つの橋の真ん中に立っており、その橋は建物のトンネルを通り、自由に通行できるようになっている。

 橋の下にはレグニッツァ川が流れており、涼を感じさせる。


 また、花と宝石の都と呼ばれるように、街の至る所に花が植えられており、その甘い匂いと相まって明るい雰囲気を至る所で感じることができるようになっている。

 レオンシュタインは目を細めながら、その景色を飽きもせずに眺めていた。


 イルマやティアナは市庁舎の豪奢な建物の装飾に目を奪われていた。

 バロック調の建物は、周囲をバラ園で囲まれており、薄い赤や黄色の華麗なモザイク模様をつくり出していた。


あるじ、中に入ってみないか」


 イルマも心なしか気持ちが浮き立っているように見える。

 3人が市庁舎の中に入ると、目の前に大きな絵が現れる。

 前の壁には新司教領主のリンベルク入りの絵を、反対側にはその死の絵が掛けられていた。

 天井を見上げた3人は、フレスコ画の華やかさと鮮やかさに圧倒されるばかりだった。


 市庁舎の裏側にはバラ園が広がっており、そちらに歩いて行くと目の前にリンベルクの街が一望できる丘が広がっていた。

 秋晴れで雲一つない青空の下、宝石のような町並みが眼下に広がっていた。


「フランケン地方の宝石とは、よく言ったものですね」


 ティアナが独り言のようにつぶやき、その街並みをずっと眺め続けていた。

 旧市街と新市街の調和が美しく、新市街でもオレンジ色の煉瓦を基調とした木組みの家が広がっている。

 目の前のレグニッツァ川は市庁舎を挟むように流れていた。


「それにしても」


 イルマはさっきから疑問に思っていることを口に出す。


「どうして、こんな作りにくいところに建物を建てたのかな?」


 市庁舎前の土台の上に、不自然に木組みの家が建っている。

 木は黄色で塗られており、壁の白に映えて美しいが、三角形の土台の上に長方形の建物が載っていることに目を引かれる。

 この家を見たいがためにリンベルクを訪れる人も多いようだった。


 しばらく市庁舎周辺を歩いた後、3人はさきほどの教会へと向かう。

 リンベルク大聖堂は、高さ80mの4つの尖塔が目印となっており、街のどこからでも見ることができる。


 大聖堂の中で祈りを済ませてから、近くにある施療院へ向かう。

 リンベルクの施療院はとても大きく、50人は収容できるベッドを備えていた。

 イルマは受付と話し、ここで解呪を行っていることを確認する。


「じゃあ、解呪は明日だ。疲れたし、宿に行こう」


「そうですね」


 太陽は西の方へ移動し、先ほどまでの暖かさが少しずつ失われてくる。

 3人はすぐに中心街に移動すると、雰囲気が良さそうなクローバー亭に腰を落ち着けることにした。

 2階の部屋に案内された3人は、すぐにベッドの上で脚を伸ばす。


「今日も歩きましたね」


 ティアナが行儀良く座りながら話しかけてくる。

 イルマはベッドの上で胡座をかきながら、


「主も痩せたんじゃないか」


 と軽口を叩く。


「本当だね。しかも襲撃付きだったからね。本当にお疲れ様」


 レオンシュタインが2人をねぎらう。


「まあ、主が無事で何よりだった。それにしても、ティアナには悪いけど、仮面の女にご執着とは子爵家当主の趣味が分からないねえ」


 その理由を知っているティアナとレオンシュタインは苦笑いをするばかりだった。


「まあ、いいさ。じゃあ、料理を食べにいこう」


 3人はがらんとした食堂に行き、小さいパンにトマト、レタス、サラミを挟んで食べる。

 食事をあっという間に平らげると、3人は話もそこそこにベッドの中に倒れ込むのだった。

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