第48話 暁蕾、宦官と組まされる
「つまり甘淑様と
なんとか気持ちを落ち着かせると、暁蕾は尋ねた。
「その通りだ。我々宦官は身内に無明道の信者がおり槃麻を広げていたなどとはとても
「それで、お前がわらわにお願いしたい事とは何なのじゃ? いっこうに話が見えんぞ」
「よろしいですか、
「両方とも引き受けてしまわれたのですか?」
暁蕾は思わず口を挟んだ。
「仕方ないだろう。どちらを断っても裏切り者として命がないのだ」
「口は災いのもとと言う言葉を知らんのか?」
董艶妃が呆れたように言った。
「申し訳ございません。まだあるのでございます。董艶様ーっ」
菅淑は懇願するような口調になっていた。整った顔をくしゃくしゃにしているのをみていると何だか可哀想に思えてくる。これがこの宦官の得意技なのだろう。
「今、この場で空き家事件の
「まさかとは思うが、わらわに助けてくれと申すのではあるまいな?」
「もう
(もう、こいつには自尊心というものがないのかしら?)
董艶妃は長いため息をついた。怒りを通り越してあきれ果てたという感じだ。
「仕方がないのー、暁蕾、なんとかしてやれ」
(えっ! 今なんと?)
暁蕾は耳を疑った。董艶妃が自分に丸投げ? そんなばかな。
「わらわの見たところ、お前たちは案外良い組み合わせではなかろうかと思うてな、どうじゃ? ふたりで協力してこの難局を乗り切るというのは」
暁蕾は
「ご、ご冗談をぉぉーっっ! この嘘つき娘と協力するですとぉーっ! いくら
「先ほどはその嘘つき娘に救われたのであろう。もう忘れたのか?」
「そ、それは……」
痛いところを董艶妃に指摘されて
「よく聞け
董艶妃の
じりじりとする時間がすぎていく。緊張から暁蕾の喉がゴクリと鳴った。
「……お誓い……申し上げる」
ゆっくりとした口調で甘淑が言葉をひねりだした。
「董艶様に忠誠をお誓い申し上げる」
董艶妃は軽くうなずいた。
「では暁蕾、そちは御史大夫のところへ行け。あやつが何を考えておるのか探るのじゃ」
董艶妃に言われなくても暁蕾は秀英のところへ行くつもりだった。いったいどんなつもりで秀英が自分に嘘を言ったのかどうしても確かめたかった。
「よかったな、小娘」
そう言って甘淑はヒヒヒと笑う。
「何を言っておる、お前もいっしょに行くのだ。甘淑」
「へっ?」
甘淑は間の抜けた声を出した。
「董艶様、もし今、私があの男のところへ行きましたならば、あやつは私を殺すでしょう。なにしろあいつの秘密をバラしたのですからな」
「だろうな。だが、わらわはそこまで鬼ではないぞ。御史大夫あての書状をしたためようぞ。もし殺されそうになったら渡すがよい」
「そ、そうですか。それは心強い」
言葉とは裏腹に甘淑の顔は青ざめている。さきほど忠誠を誓ったことをすでに後悔しているのかもしれない。暁蕾は暁蕾で、甘淑といっしょに秀英のところへ行くのは気が進まない。だが秀英に真実を語らせるならこれぐらいの荒療治は必要だとも思えた。
董艶妃が侍女を呼び、紙と筆を持って来させた。さらさらと文章を書きつけると封をして暁蕾に渡す。
「こいつが殺されそうになったら、
董艶妃はカラカラと笑った。甘淑の顔は青ざめている。苦手だった甘淑の弱みを握ることができて愉快極まりないといった感じだ。
御史台へは翌日出向くことに決まり、暁蕾は作業部屋へ戻ることを許された。部屋に戻ると
「暁蕾ーっ! 心配したーっ!」
小柄な
「ごめんね。
暁蕾は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます