第42話 暁蕾、仲間を増やす
「この白い粉には、光を放つ粉も混ぜられているのです。このように暗い場所だと浮かび上がります」
ふたりして頭からすっぽりと布を被っているので、いわばふたりだけの世界である。目の前にはボンヤリと浮かび上がる紋様があり、幻想的な雰囲気となっていた。
「すごーい! 不思議だわー!」
最初から興味を持っていた女官だけあって上々の反応だ。
「さあ、この水晶でよく見て下さい」
「うん、確かに渦のようにぐるぐるしているけど形が違うわね」
「靴についている紋様をよく見てください」
「どれどれ、うーんよくわからないけど、ふたつの種類があるような気がするわ」
女官の興奮が冷めないうちに強い印象をつける必要がある。暁蕾は冷静に女官の反応を観察する。
「では、香炉に同じ紋様がないか探してみてください。間違い探しですよ!」
女官は必死に同じ紋様を必死になって探している。実はこの作業はとても難しいとされている。西方の異国では特別に訓練された人間でもはっきりと判別できるまである程度の時間がかかるとされている。だが女官の強い好奇心がそれを可能にした。
「見つけた! ここよ、ここに同じ紋様があるわ!」
「さすがです。品物に触れないように教えてください」
暁蕾は女官から水晶を受け取ると女官が指し示す紋様を確認する。靴と香炉を交互に見ると確かに同じ紋様がある。品物に何か印をつけておきたいところだが方法がない。暁蕾は紋様の形とついた場所を記憶する。暁蕾は見たものを一瞬で記憶する特殊な能力があるのだ。
(あまり時間をかけられないわ。紋様の跡が崩れてしまう可能性がある)
「ありがとうございました。他の方にも見てもらいましょう、協力していただけますか?」
風を起こさないように注意しながら被った布を取り払う。
「見つけたわ。同じ紋様があったの! みんなも見たほうがいいわよ」
女官が興奮して周りの同僚たちに向けて叫んだ。
いつの間にか暁蕾と女官の周りには興味を持った他の女官が集まっている。
「次は私が見るわ!」
「いいえ、私に見せなさいよ!」
次はあまり反応が良くなかった女官に見てもらう必要がある。周りに影響を与えるのは予想される結果ではなく、大きな変化が起こった場合だからだ。そのことを暁蕾は良く知っている。
「皆さんには後で順番に見てもらいます。とりあえず先にあとひとり見ていただきます」
暁蕾たちを取り囲んでいる女官たちの輪の一番外に、気になる女官がいた。暁蕾が指の紋様を読み取る実演を開始してからずっと不機嫌そうに顔をしかめている。
「あんなのインチキに決まっているじゃない。バカみたい」
まわりの女官たちに否定的な言葉を吐いていたのを暁蕾は見逃さなかった。それでも野次馬根性で取り囲んでいる女官たちの輪に加わっているのは仲間はずれが怖いからだ。後宮において孤立するのはそれほどに恐ろしいことなのだ。北宮の女官たちが南宮の女官たちを差別するのはちゃんと理由がある。差別する対象をあえて作ることで自分たちが優れた集団の一員であることを確認するのだ。
「そちらの方、代表でご覧ください!」
暁蕾は、あえて否定的な態度の女官を指名した。周囲の視線が一斉にその女官に集まった。
「いや、私は……その」
暁蕾は明らかに戸惑っている女官のもとにお盆を持って近寄る。
「
最初に紋様を見た女官が
「
「そうだよ。
ここぞとばかり女官がはやし立てる。普段、毒舌を吐いて敵を作っているのかもしれない。
「わかった……見るわ。どうすればいいの?」
女官の言葉を待っていたかのように、
布の下、暗闇の中で暁蕾と
「なんで私を指名するのよ。本当に迷惑だわ。このインチキ女」
「それは
「南宮の女官ごときに何がわかるっていうの。本当に生意気ね」
「本当に董艶様を守ることができるのは、あなたのような真っ直ぐな方です。さあ、これでご覧ください」
言葉には裏腹に
「董艶様はあなたを信用しているように見える、それは確か。でも
「もういいわ、布から出して」
「ねえ、どうだった? 同じ紋様あったの?」
「見つかったの? 見つからなかったの?」
取り囲んだ女官が口々に聞いた。
「……正直、わからない」
「えーっ」
失望の声が上がる。
「でも……とてもよく似た紋様はあったと思う」
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