第40話 暁蕾、捜査を進める
「この水晶は何じゃ?」
「
「ほう、これはよいな。ほうほう、よく見えるぞ!」
「その香炉の表面には、香炉を素手で触った人間の指の紋様がベタベタとついているのです」
「何だか汚いのう。もっと我が宮の備品も綺麗に拭かせねばならん。まあよい、説明を続けよ」
「かしこまりした。重要なのはその紋様が人によって必ず違う紋様になるということです。また紋様は生まれてから生涯変わることがないのです。つまり、その紋様が誰の紋様かわかれば、誰がその香炉を触ったのかわかるということなのです」
「
「控えよ!
「ほう、お前が何をしたいのかわかってきたぞ。面白い、試すがよい。靴を脱がせよ」
侍女がひざまずいて
「お待ちください! それでは侍女の方の紋様がついてしまいます。私が承ります」
「おお、そうであったな。では
衣装の端から形のよい脚が持ち上げられて先ほどの靴が姿を現す。金メッキの施された香炉と違い、靴は布で出来ている。光沢のある凹凸の少ない生地で作られているものの、何ヶ所か刺繍が施されており紋様はつきにくはずだ。
(お願い、ちゃんとついてて)
絹の手袋をした手で慎重に靴を脱がせる。
刷毛をもう一度、筒のなかに入れて白い粉をつける。
靴の側面に紋様が浮かび上がった。成功だ。香枦と違い、紋様の数が少ない。これなら判別は容易そうだと暁蕾は安堵した。
「
「その白い粉はどういう物なのじゃ?」
暁蕾に水晶を返しながら
「これは
※注……アルミニウムのこと
暁蕾は、慈善販売会を開催するにあたってあることをとても怖れていた。それは商品の盗難だ。万が一盗まれた場合のことを考えて対処法方をいろいろ考えた。
そのひとつが指の紋様を使って盗品であることを証明すること、そして犯人を特定することだった。この手法は遥か西方の国から極最近伝わったものである。溏帝国においても知っているものはほとんどいない最先端の技術であった。
幸い
「土とな? 不思議な土もあるものじゃ」
「
「よいぞ、何なりと聞くがよい」
「董艶様に靴を履かせた侍女は、こちらにあるふたつの品に触れてはおりませんね?」
「わらわの靴を担当する侍女とそれらの品を取り扱った侍女は違う侍女じゃ」
「ありがとうございます。これで
暁蕾は、香枦と
「ずいぶんと待たせてくれたな、小娘」
机の向こう側には苛立たしげな様子の
「申し訳ありません、
「さて
暁蕾は手のひらで靴を指し示す。
「ひとつは、
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