第36話 暁蕾、難題を吹っ掛けられる
暁蕾は、両手を
「靴をお預かりします」
暁蕾の言葉に
だがその靴は暁蕾の手ではなく、
「あーあー、つまんねーなー。空気の読めねー小娘のせいで台無しじゃねーか」
「さあー、
「だ、誰が立ってよいと言った? もうよい靴を置いて下がれ」
(えっ! 動揺してる?)
「仰せのままに……」
「暁蕾、その方、そこにいる気持ち悪い男に聞きたいことがあるのじゃろう?」
唐突に董艶妃が言った。暁蕾と
「おそれながら、宦官の皆様へ聞きたいことがあるのか?ということでしょうか?」
「董艶さまーっ、いったいこの小娘はなんなのです?
(ドブネズミですって!)
後宮に来て妹と言われたり、娘のようだと言われたりいろいろしたが、とうとうドブネズミまで落ちたか。ここはさまざまな人間のさまざまな感情が渦巻いている場所だ。先程までひどい扱いを受けていた
虚しい思いが胸にひろがるのを暁蕾は感じていた。
「黙れ、甘淑! わらわはその娘と話しておるのじゃ」
董艶妃に一喝され甘淑は口をつぐむ。
「さて、暁蕾。お前は最近、
やはり来たかと暁蕾は思った。
返答に窮して固まっている暁蕾を見て董艶妃は短い笑い声を上げた。
「フフフ、冗談じゃ。わらわは全く気にしておらん。所詮、民の評判なぞ一時のものじゃ。人の気持ちは常にうつろうでの。わらわが興味を持っておるのは
暁蕾の胸がドキリと脈打った。同時に焦りと不安がないまぜになった感情が全身を覆っていく。
「準備をせよ」
固まっている
女官は籠を丸机の上に置くと、籠の中に手をいれ何かを取り出した。
――金メッキの
まさか! 暁蕾は机に置かれたふたつの品をつぶさに観察した。香炉に刻まれたブドウの紋様が目に入る。
「どうして……ここに?」
「どうやら見覚えがあるようじゃのう。手に入れるのに随分と苦労したのじゃぞ。何しろ闇の市場に出回っておったのじゃからな」
「闇の市場!」
暁蕾は絶句する。安慶の都に盗品や密輸品を売買することができる裏の市場がある。そんな噂を暁蕾も耳にしたことがあった。
「本来なら……」
ここで
「わらわが直々に
(は? いったい何を言い出すの? 意味がわからない)
あまりのムチャぶりに
それ以上でも以下でもないだろう。ご機嫌取りに最適な
……いや、待て。
なぜ、高位の宦官がわざわざやってくる必要があるのだ?
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