第29話 暁蕾、記憶を取り戻す
(しまった! 油断した!)
後悔の気持ちを感じる暇もなく、つかまれた腕をぐっと引き寄せられた。
(助けて!)
暁蕾は声をあげようとしたが、手のひらで口を塞がれる。そのまま抱き抱えられるように建物の隙間へ引き込まれた。腕をつかむ力が少し弱まった。体をひねって逃れようと体をバタつかせる。涙目で見上げた狐の面から形の良いあごがチラッと見えた。
(えっ? もしかして……)
「ばか! 暴れるんじゃない。落ち着け!」
聞き覚えのある男の声だった。狐のお面が外され、琥珀色の瞳が現れた。
「
「いったいお前は何をしているのだ?」
「
「す、すまん、痛かったか?」
本当にすまなそうにしている
「何がおかしいのだ?」
「だって、そんなに殊勝な
「俺だって、悪い時は謝る。当然だ」
少しすねたように言う
「今、お前が向かっていた家はとても危険な場所だ。お前わかっていたのか?」
真剣な表情になった
「私は、怪しい男を追ってきたのです」
「お前の話だと、その男は普通に商品を買って会場を出て行っただけではないか? なぜ怪しいと思ったのだ?」
「迷わず一番高価な品と2番目に高価な品を買ったのです」
「商品には値札がついていたのだろう? 値札を見たのではないか?」
確かにそうかもしれないと
「それに……あの男は……」
ふーっと路地に風が吹き込んでくる。
あの骸骨男から微かに感じた香り。確かあれは
――
「宦官です! あの男は宦官なんです。香りがしました。
「おそらくそれは
「麻薬!」
「しっ、声が大きい」
「
「そんな名前の麻薬は記録にありません、どう言うことですか?」
「
現れたのは、
「こいつは、後宮で情報収集をさせている女官だ。よし合図をしたら一斉に踏みこめ」
「承知しました」
男は現れた時と同じように素早く姿を消した。
「すまんが、お前に説明している時間はない。よいか、お前はここにいろ。勝手に動くんじゃないぞ!」
遠くから見ていても男たちの緊張感が伝わってきた。全員が
――
全員が腰の刀を抜く。
続いて
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