第28話 暁蕾、男を追う
思った以上の人の多さに、
商品の買い占めを防ぐため、購入できる商品はひとり3つまでと決めた。そのことを知らせる張り紙が良く見えるところに何ヶ所も張り出されている。
「これ手に取っていいのですか?」
「どうぞ、ゆっくりとご覧ください」
新婚の夫婦なのだろうか? 女性は目を輝かしてお皿を手に取って眺めている。
「とっても綺麗! 素敵ね」
「
溏帝国は磁器製造が盛んで異国にも輸出している。帝国の北方では
「異国からですって! これ欲しい」
そう言って女性は男性の方を振り向いた。
「気に入ったのかい? 値段は……3貫※か。うーん、少し高いけど買っちゃおうか」
※溏帝国の貨幣には貫と銭があり、1貫は現在の日本円で約9,000円なので3貫は27,000円程度。ちなみに1貫は750銭。
庶民にとってはやや高めの価格ではあるが、
「では、この
そう言って
今度の客は若い男だった。
男は無言で金メッキが施された香炉を手にとる。差し出された腕はとても細く骨が浮き出ている。男が手にした香炉は、細かい鎖の先に鳥とブドウの紋様が刻まれた球体が取り付けられている美しい品だ。まるで骸骨のような男が美しい香炉を眺める姿は異様としか言いようがない。
「
かすれた声で男が言った。
金メッキの香炉と
(この男、普通じゃない、それに……)
「ごめん、
「ええっ!ちょっと待ってよ、
目を丸くしている
男は広場を進んで行き、都の大通りに向かって歩いている。男を追うべきか
(後を追おう!)
覚悟を決めた
どちらの会場も大通り沿いにある。ゆえに遠方からの集客を狙えるということで都の商人たちと意見が合い、この日に販売会を開催することになったのだった。いつもより華やかな襦裙や涼しげな服を着た人々が楽しげに歩いてくる。祭りの屋台で売っていたのか、狐や猿のお面を被った人も見かけた。
男は振り向くこともなく大通りを進み、やがて細い路地へ入っていった。
路地は道幅が狭く人気がない。男と暁蕾の間にさえぎるものは何もなく、今振り返られたら尾行していることがすぐばれるはずだ。
あわてて暁蕾は家と家の間にある隙間に身を隠した。頭だけ出して様子を探る。男は一軒の家の前で立ち止まった。周囲を探るように左右を見たので、暁蕾は素早く頭を引っ込めた。
暁蕾の心臓は早鐘を打っていた。ゆっくりと慎重に頭を出していき男を確認すると、ちょうど男は家の扉を開き中へ入るところだった。
男は自分の家に帰ったのだろうか? もしそうなら自分はとんだ間抜けだと暁蕾は思った。見た目が異様というだけで自分の持ち場を離れてここまで追ってきてしまった。いや、見た目だけではない何か……何かがあったのだ。もどかしい思いが
(そうだ、あの家に行けばきっとわかる!)
――その瞬間、突然後ろから強い力で腕をつかまれた。
(えっ!)
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