第9話 暁蕾、北宮へ行く
結局、
(今は目の前の仕事に集中しよう)
宦官のことは気になったが今は心の底にしまうことにして日々の仕事を淡々とこなしていった。
*****
後宮の庭にぽかぽかと暖かい日差しが降り注いでいる。あでやかな花桃が満開となり春の訪れを告げているようだ。
苦情がないところを見ると品物はちゃんと納品されているのだろう。倉庫へ届いた品物の確認と貴妃宮への伝達をしなくていいのなら、慣れてしまえば簡単な仕事である。
いつものように発注書の入った箱から紙の束を取り出すと、薄暗い仕事部屋へ運ぶ。ペラペラと慣れた手つきで紙をめくる
「なんなの……これ?」
それは一見、普通の発注書のように見えた。他の発注書と同じように品物と必要な数が書かれている。だが問題は品物の中身であった。
弓 10張
矢 360本
木槍 10本
横刀 10振り
硝石 1袋
硫黄 1袋
最初は禁軍の装備品を調達するための文書が間違って置かれたのかと暁蕾は思った。だが発注者の名前として記されていたのは別の名だった。
――
それがこの物騒な注文をしてきた張本人の名であった。
(後宮で
「ねえ、
隣で発注書の内容を一枚の紙にまとめる作業をしていた
「うわっ! これ何?」
「これってこのまま皇城へ持っていくのはマズいよね?」
「うん……こんなの持っていったら大騒ぎになる」
確かに発注書の書き間違えというのはある。漢字が間違っていたり、字が汚くて読めなかったり、数の桁が大きすぎたり、そういう間違えはどうしても出てくる。そんな時は貴妃がいらっしゃる
だが、今回は文字や数という単なる間違いとは思えない。何らかの意図で書かれた可能性がある以上、書いた人の真意を確かめなければならない。
「
まずは自分たちの上司と言える
「そうだね、そうしよう」
「
自習を命じられて部屋に残された女官のひとりが困惑気味に答えた。どの貴妃宮へ行かれたのか?いつ頃戻られる予定なのかを尋ねてもいっこうに要領を得ない。仕方なく暁蕾は自分たちの作業部屋へ戻ることにした。
「仕方ないね。北宮へ聞きに行くしかないか……私が行ってくるよ。ええっと……
「
さっそく出かけようとする
「どうしたの?
何か引っ掛かることがあるのかと思った暁蕾が尋ねる。
「
「えっ……どんな噂なの?」
また噂では、禁軍の兵士数名相手に体術の試合を申し込み、立ち上がれないほどに叩きのめしたり、弓の試射と称して的の代わりに宦官を射たことがあるそうだ。それ以外にも
こういった様々な噂から
「北宮の悪女かあ……」
(悪女と言うよりは、もはや化け物みたいな扱いになってるわね)
暁蕾は自分の頭の中にある
だが砂狼国はひとつの神を信仰する異教徒の国であるだけではなく、文化や風習もまるで違う。
いずれにしろ
「ありがとう。でもひとりで大丈夫だよ。
部屋を出た暁蕾は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます