第8話 暁蕾、忠告を受ける
その言葉は、ある特定の文章で書き出しに使われるものだ。その文章とは――
――
この男は上奉文を書いているのだ。それも何枚、何十枚と書き直している。
上奉文とは、皇帝に直接意見を伝えるために書かれる文章のことである。だがこのだらしない男には似つかわしくない行いだと暁蕾は思った。
その事について尋ねてみたい気持ちがわき上がったが、なんとか抑える。今はそれとは別に聞かなければならないことがあったからだ。
「ここで発注した品物はちゃんと倉庫に搬入されているのでしょうか?」
「もうひとりのお嬢ちゃんが確認してるんじゃねーのか? 聞いてみればいい」
男は着用が義務付けられている
「それが、倉庫での確認作業は
「なるほどな……宦官がそう言うのならそう言うことなんだろうよ。仕事が減って良かったじゃねーか」
(どうやら、まともに答える気がないみたいね。これ以上は時間の無駄かも)
「わかりました。では倉庫を担当している宦官に直接話を聞いてみます。どなたが担当なのか教えていただけますか?」
暁蕾の言葉に男はため息をついた。
「なあ、お嬢ちゃん。悪いこと言わないから自分達の仕事だけに集中しな。でないと俺のようになるぞ」
暁蕾の頭脳が『
――
前皇帝に臆することなく意見を言い、重用された男の名だ。
『
目の前にいる男が
「失礼しました! あなた様は前の
片膝をつくと拝礼する。
「お嬢ちゃん、あんた最近後宮に来たんだろ。俺がここに異動になったのはあんたが後宮に来る前のはずだ。それに俺がここに異動となったことは触れてはならない暗黙の了解になってるんだぜ」
やはり暁蕾の予想は正しかった。この男は前皇帝に重用された
「いえ、誰からか聞いたわけではございません。失礼ながらそちらにあります書状は
「あーあー、バレちまったか。恥ずかしいから知られたくなかったんだがよ。そうだよ、俺は
そう言って
「
「お嬢ちゃん、いい加減立ってくれ。こそばゆいからよ」
相変わらず片膝をついて礼を取ったままの暁蕾に
「いいかい、お嬢ちゃん。一回しか言わねーからよく聞け、そして聞いたらすぐに帰るんだ、わかったか?」
「後宮で生き残りたいなら
ここで
「宦官のことを調べようとするな。以上だ、さあ帰ってくれ!」
いろいろ聞きたいことがあった暁蕾だったが、約束は約束だ。
暁蕾は、皇城から後宮へ帰る道すがら、宦官について考えてみた。宦官とは
後宮の貴妃たちの世話は女官がおこなうのだが、やはり後宮においても溏帝国の政治に関わる必要がある。かといって男性の官僚が後宮の補佐をすると後宮の純潔が脅かされる。そこで宦官の登場である。男性としての機能を失った彼らは後宮にいる貴妃たちの純潔を奪うことはない、非常に都合の良い存在であった。男でも女でもないこの宦官が後宮はおろか溏帝国そのものの政治を牛耳る存在であるのは間違いなかった。
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