第6話 暁蕾、男と出会う
その日は、大量にある発注書を一枚の紙にまとめる作業と、過去の注文状況について記録を作ることにした。
暁蕾だけで手早く終わらせることも出来たのだが、それでは
夕刻になり部屋に
「暁蕾、なんですかそのお辞儀は!」
「暁蕾、今まで何を教わって来たのです!」
容赦ない
(そうか、誰かのお手本通りに真似してやるのが得意なのね)
品物の発注作業で分担する際にも、それぞれの得意分野に仕事を割り振れば早く終わらせることが出来るかもしれないと暁蕾は思った。
礼儀作法の授業が終わると女官用の食堂で夕食をとり寝所へ向かう。暁蕾や
昼間、発注書のことで絡んできた侍女、
翌朝、身支度をして朝食を取った後、再び
「いいですか、後宮の北側は北宮と呼ばれています。北宮には貴妃宮があり貴妃の方々とその侍女、使用人である女官がいらっしゃる場所となっています。用もなく北側へ立ち入ってはなりません。またまれに北宮から貴妃様が我々がいる南宮へ来られる場合があります。回廊で貴妃様とお会いした場合、直ちに片膝をつき拱手の礼を取らなければなりません。くれぐれも忘れないように」
暁蕾は後宮に行けば美しい貴妃や侍女がそこらじゅうにいるものと思っていた。だがこの南宮にいるのは皇帝の寵愛を受ける美しい貴妃ではなく、日々の地味な雑用をこなしている下級女官たちだった。もちろんそれでも才能や技能を認められた有能な女子や家柄の良さで選ばれた女子たちであることは違いなかった。
一介の役人の娘である暁蕾や辺境から来た
「備品係の仕事はどうですか? うまく出来そうですか?」
授業の終わりに
「はい、
「そうですか……」
キッパリと答えた暁蕾に
例の薄暗い仕事部屋へ移動して2日目の仕事が始まった。発注書の箱へ取りに行くと既に何枚も紙が入っている。ちょっと多すぎないか?と暁蕾は思った。後宮では米や油や蝋燭をそんなに大量に使うのだろうか?
「
「わかった……暁蕾が書いてくれたお手本がある。見ながらやってみるよ」
バラバラの発注書を1枚の綺麗な発注書へまとめる作業はかなり手間がかかる。暁蕾はまず1枚のお手本を書き、そのお手本に記入する上での注意事項を書き入れたものを作った。昨日、礼儀作法の授業で
後宮に入る時は西側にある
通用門は通常の門と比べてとても小さい。木製の粗末な片開きの扉で背も低い作りなので背の高い暁蕾は少しかがんで通り抜ける必要があった。
辺りを見回し誰もいないことを確認してから通用門をくぐる。昨日見た左右対称の建物が眼前にひろがると予想していたのだが暁蕾の予想は裏切られた。
なぜなら門を出た真正面に誰かが立っていたからだ。目の前に立っていたのはとても背の高い男だった。線の細い中性的な雰囲気を持つその男に暁蕾は見覚えがあった。美しい琥珀色の瞳が驚きで見開かれているのが見えた。
「うわっ!」
暁蕾は思わず間抜けな声を上げてしまった。
「あなたはあの時の……!」
男の正体は暁蕾に後宮入りを命じた
問題は
男が着ている紫の官服は、三品以上の役人にしか着用が認められていなかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます