第3話 暁蕾、同僚に会う
鳳凰門の門番に声をかけて花鳥史から渡された証書を見せる。門番の男は証書を受け取ると暁蕾を頭からつま先までジロジロと見たあと「ここで待て」と言った。しばらく待っていると門の通用口が開き、中に入ることができた。
門の奥にひとりの女性が立っていた。歳のころは30ぐらいだろうか? 薄緑色の
「あの……」
鋭い視線に射すくめられて暁蕾は固まった。
「
よく響く声が飛んできて、暁蕾は我に返った。慌てて左手で胸の前に拳を作り右手のひらでその拳を包むようにして差し出す。溏帝国における伝統的な挨拶の儀礼だった。
「本日から、後宮に
女性は、暁蕾が門番に渡した証書を手に持っている。証書と暁蕾を交互に見比べると少しだけうなずいた。どうやら本人と確認できたのだろう。
「私は後宮の教育係をしている
「後宮へ案内します、ついてきなさい」
暁蕾の父、
皇城の建物は敷地に左右対称に作られている。石造りの台の上に鮮やかな朱色の柱が何本も建てられ美しい曲線を描いた瓦屋根を支えている。建物の壁には細かい装飾が施されまるで異国に来たような雰囲気が漂っていた。
皇帝の手足となって国のまつりごとを行っているのは
(この中に皇帝陛下がいらっしゃるのね)
皇帝陛下を自分の目でみたことはない。たが帝国の安定に力を注いでいる真面目な皇帝という印象はあった。
右手の城壁にやや小振りの門があり、その前で
「ここが後宮へ入口、
(これが後宮! なんて美しいんだろう)
暁蕾が建物に見とれていると、氷水があきれたようにこちらを見ているのに気がついた。
「ぼっーとしてる暇はありませんよ、まずはお前の職場への挨拶です」
季節は春の始めである。後宮の庭には白梅と紅梅の花が美しく咲き誇っている。紅白の花が並んで咲く姿は一枚の絵のようであった。
氷水に連れられて暁蕾は、手前にある比較的、質素な作りの建物に入った。廊下で女官たちがせわしなく動き回っていたが、入ってきたふたりを見て動きを止める。
「あら、また田舎者がやって来たみたいね」
「パッとしない娘ですこと」
どうやらここでは新入りは歓迎されないようだ。
(これでも帝都安慶の出なんだから!失礼ね!)
こそこそと陰口をたたく女官どもに言い返してやりたい気持ちをなんとか抑える。
氷水と暁蕾は、廊下の突き当たりにある薄暗い部屋に入った。部屋の中央には木製の机がひとつ。机の脇には書類の山が出来ている。椅子に座り、しかめっ面をしながら書類をめくっている女性が目に入った。
ふたりが部屋に入っても女性は書類に視線を落としたままだ。こちらを気にしている素振りがまったくない。
「
氷水のよく響く声が女性に向けて発せられた。ようやく女性はのろのろとした動作でこちらを見た。こちらに向けられた顔はまだあどけなさが残る少女のものだった。おそらく暁蕾と同じくらいの歳だろう。
椅子に座っていても小柄なのがわかる。異国の血が入っているのだろう、ほりの深い目鼻立ちをしていた。薄桃色の襦(上着)に淡い水色の裙(スカート)が似合っている。
「う……これ全然終わらない」
椅子から立ち上がり氷水と暁蕾に礼をとった後、
「
「
「……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます