第3章 ネブラ編 4

 イマーゴの掃討作戦にミカとカーラが加わってから、早一月が経った。若すぎる二人を一部では疑問視する向きもあったが、彼らの働きがそれを払拭させ、今や誰もが信頼を寄せていた。

 そんなある日の午後のことだ。外はどんよりと曇り、小雨が振っているため、ミカとカーラはあてがわれた宿舎の廊下で、軽く体術の稽古をしていた。すると、年若い人間の兵士が、血相を変えて現れた。

「どうかしましたか」

「すぐに来てくれ、敵が現れた!」

 ミカが尋ねると、兵士は青ざめた顔で捲し立てた。

「酒場にイマーゴの魔物がいるんだ。そいつが強くて、誰も歯が立たない」  

「分かりました」

「あたしも行くよ」

 やりとりを見守っていたリリアーナが、名乗り出た。

「リリは危ないから、来ない方がいいよ」

「だったら余計に、お薬の補充とか、治療が必要なんじゃない?」

 心配するカーラへ、リリアーナが肩をすくめた。

「無理だと思ったら、逃げるからだいじょうぶ」

 三人は濡れるのも構わず、雨具なしで馬を駆り、兵士の先導で町の酒場へ急行した。場所は探さなくてもすぐに見つかった。やどり木亭という看板が掲げられた酒場兼宿屋の前には、遠巻きに人が集まっており、騒然としていたからだ。

「行こう、ミカ」

 カーラは馬を降りると、兵士に手綱を預けて酒場へ早足で進んだ。

「二人共、気をつけてね」

 リリアーナは遠ざかる仲間達へ呼びかけた。

 野次馬をかき分けて酒場へ足を踏み入れた二人は、凄惨な光景に息を飲んだ。人間の兵士数名、硬い表皮と怪力が自慢の、象の頭部を持つ傭兵が一人、切り刻まれて床に転がっていたからだ。彼らの血は天井まで飛び散り、床は一面真っ赤に染まっている。

 そんな中、黒いローブ姿の者がカウンターに座り、手尺で蒸留酒の瓶をマグに傾け、ゆったりと飲んでいた。

「遅かったな」

 この声。ミカは背筋が寒くなった。

「ミズラッハ」

「口のききかたに気を付けろ。家畜の分際で主人を呼び捨てるとは、言語道断だぞ」

 ミズラッハは穏やかに叱責しながら、マグを片手に二人へ体を向けた。

「どうしてここに?」

 恐怖の権化が突然現れ、ミカは知らず、汗が額に浮かんだ。

「決まっているだろう。私の望みを打ち砕いてくれた、憎たらしい畜生共へ仕置きをするために、だ」

 ミズラッハは残りを煽ると、マグを床に叩きつけて立ち上がった。

「ずっと探していた。貴様らの情報が届いた時は、嬉しさで体が震えたぞ」

「そんなことのために、わざわざ来たの」

「そんなこと? そんなことだと?」

 ミズラッハはカーラの言葉に気分を害したように、低い声で問い返した。

「この私が、貴様らに受けた屈辱をそのままにできるか」

「カーラ、ここは引こう」

 ミカはカーラに囁いた。

「町中で暴れられたら、被害が広がる」

「さて、始めようか」

 ミズラッハは笑いながら近づいてくる。

 ミカとカーラは同時に踵を返すと、酒場を後にした。店の外で状況を見守っていた物見高い者達は、二人の姿を認めるとわっと声を上げて散って行く。そんな彼らなどお構いなしに、町の外へ全力で走った。

 ミカが振り返ると、ミズラッハが猛烈な勢いで追いかけてくるのが見えた。

「ミズラッハが来る」

「どこへ行く?」

「森まで」

「分かった」

 二人は街門を抜け、街道を逸れて近くの森へと進んだ。ブナの木々の間を駆けていると、二人の前に、前触れもなくミズラッハが立ちはだかった。

「どこまで行くつもりだ?」

「やるしかないね」

 ミカは力を解放した。もはや、出し惜しみはなしだ。力の使い方を教わった師であるミズラッハの強さは、身に染みている。しかし、希望はある。自分は一人ではない。頼れる友がいる。

「ええ」

 カーラも白い鎧姿に変身し、腰の剣を抜く。

「来い」

 ミズラッハは両手の爪を伸ばし、腕を広げた。

 にわかに雨が本降りになり、三人へ降り注ぐ。

 二人は武器を構えてミズラッハへ踏み込んだ。

「悪くない」

 余裕を見せながら、ミズラッハが二人の攻撃を装甲のような表皮で受け流す。

「貴様らが私に従わなかったのが、本当に残念だ。私に仕えていれば、恩恵を授けてやったものを」

「そんなの要らない!」

 カーラは即座に言い返す。

「主人の安泰は、畜生の安泰でもある。それが分からないか?」

 ミズラッハは、カーラの剣を手のひらで受け止めると、握り潰した。

「!」

 カーラは使い物にならなくなった剣を捨て、自分の手を剣に変化させた。

「貴様らはまだ、力を活かし切れていない。アルバは一体なにをしている」

 ミズラッハは二人の攻撃をかわそうともせず、両手で受け止めて遠くへ投げつけた。

「だめか……」

 えぐれた地面にうずくまりながらミカは弱音を吐いた。カーラの力を加えても、ミズラッハには届かない。

「ミカ、昔を思い出して」

 カーラはシダと土にまみれながら、立ち上がった。

「昔?」

「そう。見習いの時、一緒にお仕事をしたでしょ。私達、お互いになにを考えているのか、どう動くか、分かっていたじゃない」

「そうだね」

 足りないところを補い合い、一人では出せない力を発揮していた。

「私達、バラバラに動いていたら勝てないよ」

「久しぶりすぎて、忘れてたよ」

 ミカも気を取り直して起き上がる。そうだった。ただカーラの力を加えるのではなく、息を合わせなくてはいけなかった。

「どうした、休憩が長いのではないか?」

 ミズラッハが腕を組みながらせせら笑った。

「あいつは、私達を低く見てる。それって、いいことだよね」

「確かに」

 ミカはカーラの隣に並んだ。相手を軽んじる者は、本来の力を発揮しない。こちらにとっては、付け入る隙があるということだ。

「行くよ」

 カーラの掛け声と共に、ミカは踏み込んだ。

 ミズラッハがカーラの攻撃を受け止めれば、ミカが仕掛ける。

 ミカに攻撃を繰り出そうとすれば、カーラがすかさず切りつける。

 先程とはまるで異なる息が合った攻撃に、ミズラッハはたじろいだ。

「く!」

 カーラの一撃を受けた腕にヒビが入り、紫色の体液が飛び散る。

 更に、ミカの胴を狙った突きが、硬い肌を貫く。

「家畜ごときが!」

 ミズラッハの両手に黒い光球が浮かび上がった。それは見る間に大きくなり、手の平よりも大きくなった。彼はそれを二人へ狙い定めず、地面へ叩き付ける。

「カーラ!」

 ミカはカーラを抱えてその場を離れた。

 周囲の木々を根こそぎ吹き飛ばす巨大な爆発が起こったのは、その直後だった。 


「ちょっと、どうしたの」

 リリアーナは見物人が散っていく間も、ずっとその場を動かなかった。凄い勢いで酒場を出てきたミカとカーラが、真っ直ぐ町の外へ向かうのを確認する。

 次いで、嫌な雰囲気のローブ姿の者が現れ、二人の後を追うのを見て、ただ事ではないと察した。

 リリアーナは人目に付かない路地へ走ると、羽根を広げて空から三人の後を追う。人間の町にいる異種族は戦士であったり、夜の繁華街で働いていたりと、目にする場所がまだまだ限られているので、あまり大っぴらにしない方がいい。

 やがて、町の外に広がる森で、激しく打ち合う音が聞こえた。リリアーナは地面に降り立ち、慎重に歩を進める。

「おやおや、誰かと思えば、リリアーナさんじゃありませんか」

 背中から声を掛けられ、リリアーナは振り向いた。黒いローブを身にまとった蜂顔の種族が立っている。

「アピス、さん」

 リリアーナが総毛立った。急に、膝が震え出す。

「懐かしいですね。お元気でしたか?」

 穏やかな口調で、アピスはリリアーナと距離を詰めた。

「お陰様で。アピスさんはどうしてここへ?」

 近づくアピスと同じ速さでリリアーナは後退する。 

「ミズラッハ様の付き添いですよ。どうしても、自らの手で決着を付けたいと申されるので。まったく、あの子達には何度も手を焼かされる。飼い犬に手を噛まれるとは、こういうことを言うんでしょうね」

「ミカもカーラも、犬じゃありませんよ」

「犬ですよ。組織が調教をした畜生です」

 アピスは立てた指を左右に振りながら、リリアーナの言葉を正した。

「そうですね、ミズラッハ様が本懐を遂げている間暇ですから、一緒に遊びましょうか」

「お手玉でもしますか。それともブランコ?」

 声が上擦っていて、笑いを取るにはほど遠い。

「ふふ、鬼ごっこはどうですか。鬼は私がやりましょう。あなたは逃げなさい。ただし、捕まったら死にますよ」

「冗談、ですよね」

「もちろん、本気です」

「悪趣味だなあ」

「自分の命がかかった鬼ごっこ、最高じゃありませんか」

 アピスの声は歓喜で裏返っている。

「さあ、全力で逃げなさい。始まりです」

 勝手に宣言をして、アピスが手を叩いた。


 リリアーナは旅立つ前日の夜、グリシナ達へ挨拶に行った。セラス達は夜更けでも仕事をしていて、せっかく知り合えた彼女がいなくなるのを残念がった。

「えー、リリ達行っちゃうんだ」

 応接室で向かい合って座りながら、グリシナが寂しそうな顔をした。相変わらず、夜光石のあかりの中に埃が舞っている。

「はい、あたしはミカとカーラの支援をします」

「あの子達、もっと研究したかったのに」

 グリシナは顔をしかめ、下唇を突き出した。

「散々やったじゃないですか」

 ほぼ連日二人は呼び出され、セラス達の前で力を解放し、模擬戦をやらされた。他にも血を抜かれたり、力の度合いを測られたりして様々試された。二人とも嫌がらずによく協力したと思う。

 本当は二人共、グリシナ達へ挨拶しようとしていたのだが、自分が代表で行くと説得して、部屋に戻ってもらった。旅の前日まで、研究に付き合わされては気の毒だからだ。

「足りないよ。全然、足りない。だって洗礼者に、第二のアルバだよ」

「また、戻ってきますよ」

「そうじゃないと困る。ところで、支援って具体的になにするわけ」

「隙を見て、ちょこっとお手伝いするくらいです。シビれる成分に調合した鱗粉投げつけたりとか。今回はカーラもいるし、お薬を渡したり、治療をする程度かな」

「危なくない? だいじょうぶ?」

「あたしなんて、洟も引っ掛けないですよ」

「甘い、甘い。興奮してる奴は、何するか分からないよ。そういうのに出くわしたらどうするのさ」

「危ないですね、それ」

 そう言いつつも、ミカに付いて戦った経験はあるから、ある程度対処する自信はある。無理なら、羽根を広げて空に退避すればいい。

「向こうにしてみれば、支援だから放っておこうなんて、判断したりしないよ。敵は敵だもの。邪魔臭いし、面倒だからやっちまえ、ってなもんだよ。案外いるんだ、そうやって死んじゃう子」

「恐いなあ……」

「辞退しといたら?」

「だけど、ミカもカーラも戦うし、あたしもなにかしたいんですよね」

 自分は自分にできることをして役に立ちたい。友人達が体を張るのに、安全な場所に留まっているだけでは、気が咎める。

「気持ちは買うけど、死んじゃったらなんにもならないよ」

「うーん、グリシナ様、なにかいい武器ないですか。あたしでも使えて、効果のあるやつ」

「あるよ」

「あります? ホントに?」

 即答を聞いて、リリアーナの声が一段高くなる。

「だけどさ、条件が色々付くんだよね。敵がリリを即刻殺しにかかったら、おしまい。体が硬くて跳ね返されたら、おしまい。複数だったら、おしまい。一度きりの機会をしくじったら、おしまい」

「条件厳しいですよ」

「リリだけでどうにかなる相手ならいいさ。私が想定しているのは、リリより強い相手だもの。勝ち目のない戦いを引っくり返すのは、並大抵じゃないよ」

 グリシナは立ち上がると、部屋から出て行った。やがて、両手に乗るくらいの大きさをした、蓋が付いた木箱を持って戻ってくる。

「開けてみて」

 グリシナは、テーブルに置いた木箱を、リリアーナの方へ押した。

「なんです? これ」

 リリアーナは蓋を開けて、中を覗き込んだ。そこには握り手の先に吊り紐が付いた、短剣ほどの長さをした針が入っていた。

「毒針さ」

「毒針……?」

 リリアーナは恐る恐る箱から取り出して手に取った。長細い雫のような形の針に、不安げな自分の顔が歪んで映る。

「そう。相手にグサッと突き刺すでしょ。そしたら、根元から針をへし折るんだ。こう、力任せにボキッとね」

 グリシナは身振りを交えて語った。

「すると、敵の体に残った針から、くさびが飛び出るんだよ。ほら、昆虫の脚みたいなトゲトゲを想像して欲しいんだけど。分かる?」

「ええ、なんとなく」

 リリアーナは毒針をしげしげと見ながら言った。確かに、針の周囲にはぐるりと細長い物がはめ込まれている。これが針を折った瞬間に広がって、肉に食い込むのだろう。

「それだけじゃない。くさびの先端の小さな穴から、体を腐らせる猛毒が一斉に吹き出す。どんなに体が大きかろうが、強かろうが、確実に昇天ってわけ」

「うわお、強烈。もらっていいです?」

「もちろん。使ったら後で感想を聞かせてね。改良の参考にしたいから」

「使わないに越したことはないんですけどね」

「備えあれば憂いなしさ」

「これ、普通に持ち歩いてだいじょうぶですか。突然、くさびが広がったりなんてしないですよね」

 リリアーナは毒針を手におののいた。転んだりして誤作動したら、自分が猛毒の餌食になってしまう。

「よく見なよ。専用の袋があるでしょ」

「ホントだ」

 箱には毒針と同じ形をした袋も入っていた。開けてみると、ブヨブヨとした緩衝材が入っている。これなら安心だ。

「……」

 気持ちが軽くなったと思ったら、また心配が湧き上がる。

「どうしたの?」

「グリシナ様、あたしやっぱり、自信ない。おかわりありませんか」

「おかわり?」

「しくじったときの、救いの手ですよ」

「それはないね」

 グリシナは両手を広げて肩まで持ち上げた。

「えー、なんでです?」

「こいつは弱いと侮っていた相手がだよ、予想外の攻撃を仕掛けてきたらどう感じる? この野郎、手加減してりゃつけ上がりやがって、って思わない? 後は一方的にメッタメタにされちゃうよ」

「そんなあ」

「上手な使い方はね、私はあなたに抵抗する力なんてありません、どうかお助けくださいって哀れっぽく振る舞って、相手を喜ばせるところから始めるんだ」

「喜ぶんですか? それで?」

「喜ぶよ。諦めきって無抵抗の奴を嬲ってもつまらない。泣いたり、喚いたり、命乞いをしたり、無駄な抵抗をしてくれた方が、興奮するのさ」

「ヘンタイですか。あ、でも、分かるなあ」

 イマーゴの連中も、その前の田舎の悪党達も、弱い者を痛めつけ、屈辱を与えて大喜びをしていた。

「ただ演技するだけじゃ足りないね。多少は痛めつけられて、苦しんだ方がいい。圧倒的に優位な立場なんだと錯覚させて、相手の気を十分に緩めて、そして……」

 グリシナは自分の手の平に拳を打ち付けてパン、と音を立てた。

「痛い目見なきゃダメですか」

「じゃないと、向こうが納得しないでしょ。追い詰めるのは前菜さ。ジワジワ嬲るのが主菜、止めを刺すのがデザートだ。死体を眺めて悦に入るのは、食後のお茶かな」

「グリシナ様、表現が悪趣味ですよ。それに、なんで嬉しそうなんですか」

「え、嬉しそう? ヤだな」

 グリシナは自分の顔を両手で触りながら焦った。

「鏡、持ってきましょうか?」

「ヤメて、ヤメて。私が悪かった」

「毒針はいつ使ったらいいんでしょう? 前菜? 主菜? デザートは遅すぎますよね」

「前菜じゃ早い。やっぱり、主菜かな」

 グリシナは腕組みをし、眉間に皺を寄せながら言った。

「痛いの勘弁だな」

「死ぬよりマシだって。リリは演技得意そうだから、いいじゃないの」

「腐った奴らの下で働くには、必要な技術ですもん」

 愛想笑い、嘘泣き、おだて、上辺の態度で乗り切れるなら、なんでもやった。

「経験が活きるなら、いいじゃない」

「汚れた気分になりますけどね」

 代償は、自己嫌悪とやるせなさ。溜まった鬱屈は、美味しい物を食べて、愚痴って解消をする。けれども、毎日積み重なるから、終わりがない。

「リリは汚れてないよ。あたしには眩しいくらいさ」

 グリシナは眼鏡を外して寂しげに微笑んだ。

「汚れてるっていうのは、私のような奴を言うんだ。仲間を守れず、復讐心を燻らせている愚かな奴をね」

「グリシナ様……」

「必ず帰っておいでよ。みんな待ってる」


「お願いです、助けてください」

 リリアーナは全身濡れそぼちながら、森を走った。アピスは余裕ぶっている。体だってそんなに硬そうではない。そして一人だ。条件に適っている。とにかく、相手を油断させるのだ。

「ダメです。星の巡り合わせが悪かったと思って諦めなさい」

 アピスはリリアーナの反応が期待通りで嬉しいのだろう、声が弾んでいた。

「あたしを殺したって、面白くないでしょう」

「そうでもありません。最近は、事務作業ばかりで血を見ていませんから、ちょうどいい気分転換になりますよ」

「良心がうずきませんんか」

「イマーゴには、不要な感情ですね」

「ホント、イカれてますね」

 リリアーナは落ちていた石や朽ちた木の欠片を拾ってアピスへ投げつけた。

「無駄です。その程度では、鬼を倒せません」

 アピスはリリアーナの攻撃を手で払いながら歩みを止めなかった。

「派手にやっていますね。ですが、ミズラッハ様の相手ではありますまい」

 ふと戦いの音がする方へアピスが目をやった。

「じゃあ、また」

 アピスの意識が逸れた瞬間を狙い、リリアーナは羽根を広げると、空へ舞い上がった。雨が当たって、普段より重く感じる。

「忘れていませんか? 私だって、飛べるんですよ」

 ローブの背中にある切れ込みから羽根を広げ、アピスは浮かび上がった。

「うわわ」

 リリアーナは振り返って悲痛な声を上げた。ぶん、という羽音と共に、アピスがぐんぐん迫ってくる。蝶と蜂では、羽ばたく速度がまるで違う。

「ダメじゃないですか、ちゃんと逃げないと」

 アピスは説教と共に、リリアーナの背中に体当たりをした。

 リリアーナは地面に落下し、下草を撒き散らしながら転がった。そして、こぶのように膨らんだ木の根に頭をぶつける。

「あいたた……」

 起き上がろうとしたリリアーナを、アピスが上から踏み付けた。

「ああ、残念。鬼が追い付いてしまいました」

 アピスは言いながら、リリアーナの全身を蹴り付けた。

「試しに、ミカ君とカーラさんを呼んでみたらどうです? もしかしたら、助けに来てくれるかも知れませんよ」 

 するもんか。これは、自分の戦いだ。リリアーナは痛みに耐えながら歯を食いしばった。全て予定どおり。前菜は終わって主菜が始まった。後はいつ毒針を使うかだ。

「ただでは殺しませんよ。あなたは彼らの代理です。私もあの子達には思うところがある。たっぷりと鬱憤を晴らさせてもらいますよ。あの世で二人と再会した時、いい土産話ができますね」

 アピスは、リリアーナに覆いかぶさりながら捲し立てた。

「まずは、動けないように足を折りましょうか? それとも、抵抗できないように腕を折る? それからどうしましょうか? あなたに選ばせるのも一興ですね」

「ちくしょう……」

 リリアーナは涙をこぼして悔しがった。半分は演技だが、半分は本気だ。散々痛めつけられて抵抗できない無力さが、自然とそうさせた。

 それがアピスの嗜虐性を高めるらしく、吐息が激しくなる。

「どうです? 選びますか? それとも私にお任せ?」

「断る」

「え、なんですか? 聞こえません。もっとはっきり言ってくれますか」

「断るって言ってるの!」

 リリは腰のベルトに下げていた袋から毒針を抜き取ろうとしたまさにその時、ミズラッハが怒りに任せて地面に叩きつけた黒い光球が爆発を起こした。

 離れていた二人のところにも余波があり、アピスが土や木の残骸を含んだ爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされる。


「危なかった」

 ミカは地面に伏せたまま息を吐いた。木の影からミズラッハの方を見ると、彼の周辺はすり鉢状にへこみ、もうもうと煙を上げる剥き出しの地面と化していた。もう少し逃げるのが遅かったら、まともに衝撃を受けてバラバラになっていただろう。

「そういえば、ミカも使ってたっけ」

 ミカの腕から抜け出たカーラが言った。

「うん。かなり力を使うから、ここで決めるって時以外は、使わないようにしてる」

「て、ことは、ミズラッハだってあんな大技を使ったら、疲れるよね」 

「そうだね」

「よし、私達にもまだ勝機はあるね」

 ミカは拳を握り締めるカーラに、子供の頃の勝気さを思い出す。

「出てこい。まだ息があるのだろう?」

 ミズラッハは視界を巡らせながら、呼び掛けた。

「いいのか? 力を解放する時間にも限りがあるだろう」 

「あんなこと言ってる」

 カーラは悔しそうに地面を叩いた。

「でも、その通りだ」

 今は力を抑えているが、それでも血管は黒く染まりつつある。カーラだって限界は近いだろう。

「せめて、薬を持ってきていれば」

「嘆いても仕方ないよ」

「カーラ、僕にいい考えがある」

 ミカはかつてミズラッハから教わった力の使い方を思い出していた。並の攻撃を仕掛けたところで、回復されておしまいだ。状況を引っくり返すには、あれしかない。初めて試すのが不安ではあるが……。

「危ないのはなしだよ」

「危なくないと言ったら嘘になるね」

「どんなの?」

「洗礼者の血を限界まで解放するんだ。戻す時間を誤ると、手遅れになって体が保たなくなる」

「だめ」

 カーラは聞くなり否定した。

「ミカ、私と闘技場で戦った二回目の時、違和感を覚えなかった?」

「なんだか、操られているような感じはした」

「それ、私の力なの」

 さらりと告白されて、ミカが言葉を失う。

「細かい説明は後。あいつは私のことをよく知らない。だから、いけると思う。私が隙を作るから、ミカが止めを刺して」

「分かった」

「どうせ、後はないんだ。行こう」

 カーラはすり鉢の縁に立ち、ミズラッハを見下ろした。

「ようやく出てきたか」

 ミズラッハが含み笑いをした。


「なんなのよ、一体」

 リリアーナは上体を起こすと、口に入った土を吐き出しながらぼやいた。突然の大爆発で、耳がキンキンする。

「あれ、毒針……」

 リリアーナは寂しくなった手元に、泣き出しそうな顔になる。さっきの爆発でどこかへいってしまった。

「ちょっと待ってよ」

 ちゃんと吊り紐まで握り締めればよかった、などと後悔しても遅い。慌てて立ち上がり、周囲を見回す。

 一帯は千切れた木々の残骸や土砂が積もり、ひどい荒れようだった。これでは探すのも一苦労だ。

「どこ、どこなの」

 リリアーナは四つん這いになって毒針を探した。

「いやはや、なにごとですか」

 すぐ近くで、千切れた葉や折れた枝を撒き散らしながら、アピスが立ち上がった。

「ミズラッハ様が手こずっている? まさか」

「うう……」

 リリアーナは自分の運のなさを嘆いた。探し物は、なんとアピスが踏んづけていた。

「あなたも無事なようですね。では、再開しましょうか」

 とにかく気付かれたらまずい。リリアーナはパッと立ち上がり、アピスと向き合いながら、ゆっくりと円を描くように移動した。

「逃げないんですね。追い詰められた鼠は猫に噛みつくと言いますが、そんな心境ですか?」

 アピスは腕を広げ、リリアーナの動きに合わせる。

「そうね、そんな感じかな」

 リリアーナは平然とした態度で応じた。額に汗の玉を浮かべながら、あと半周、あと半周と心の中で繰り返す。

「しかし、鼠は所詮、鼠でしょう。本気で猫に叶うとでも?」

「どうかな、鼠だってやるときはやるよ」

「生意気ですね。だが、それがいい。最後までそうしてください。されるがままでは面白くないですからね」

 あとわずか、というところで、アピスが組み付いてきた。歴然とした力の差で、リリアーナは地面に倒されてしまう。

「さっき、なんて言いましたっけ。そう、断るでしたね」

 アピスがリリアーナへ馬乗りになり、顔を近づけた。

「断って、それでどうしたいのですか。聞かせてください」

「聞きたい?」

 リリアーナはアピスを見据えつつ、腕を精一杯伸ばした。吊り紐が指先に当たる。

「是非とも」

「どうしようかなあ」

 リリアーナはアピスの生臭い吐息を間近に浴びながら、吊り紐に指をかけて手繰り寄せた。そして、持ち手をしっかりと握る。

「焦らしますね。そんなに素敵な提案があるんですか」

「うん、とっても!」

 リリアーナはそう言うと、アピスの脇腹目掛けて、毒針を力いっぱい突き刺した。

「は?」

 アピスは大顎を小刻みに震わせながら、脇腹を見た。

 せーの、という掛け声で、リリアーナは毒針を根元からへし折った。

「ぶぎゃああああ!」

 アピスは喉が裂けるほどの声を上げ、地面を転げ回った。脇腹から煙が立ち上り、鼻をつく悪臭が漂う。彼は毒針を抜こうともがくが、くさびが効いたそれは、しっかりと肉に食い込んで取れなかった。

「やった!」

 リリアーナは起き上がると、握った拳を突き上げた。まったく、聞きしに勝る威力だ。

「上等じゃないですか」

 口から泡を吹きながら、アピスが膝立ちをした。

「ウソ!」

 リリアーナは頭が真っ白になった。アピスに反撃能力があるのなら、もうどうしようもない。

「この程度で、私を殺せると思っているんですか」

 アピスは脇腹に尖った指を立てると、毒針を肉ごと毟り取り、腹立たしそうに地面へ叩き付けた。

「毒には耐性があるのでね」

「無理しない方がいいですよ」

「お気遣い、ありがとうございます。お礼に、全身の肉を千切ってあげますよ」

 アピスは指の爪をカチャカチャと鳴らした。怒りのせいか、頭が真紅に染まっている。

「遠慮します」

 リリアーナは、再び羽根を広げて空に舞い立った。

「無駄なことを。学ばないんですか」

 アピスも羽根を展開すると、すぐに後を追う。

「あんたがね」

 振り返ったリリアーナは、迫り来るアピスに向き直ると、腰に下げた皮袋に手を突っ込み、麻痺を誘発する鱗粉の小袋を投げつけた。

「ぬお!」

 小袋はアピスの顔面で弾け、鱗粉が飛び散る。

「はい、おまけ」

 一転、リリアーナは降下しながら、残っていた小袋をアピスの抉れた脇腹へぶつけた。

 追い討ちをかけられ、アピスは絶叫しながら墜落していった。頭を地面に打ちつけ、首が妙な方へねじ曲がる。

「もうイヤ、もうダメ」

 地上に降り立ったリリアーナは、地べたに尻をつき、荒い息を吐きながら嘆いた。

「わ、私が、こんなところで終わるなんて」

 アピスは息も絶え絶えにリリアーナへ手を伸ばした。

「勘弁してよ」

 リリアーナはそのままの姿勢で、手を使って後ずさった。とどめを刺さなければいけないのは分かるが、しぶとすぎて気持ちが悪かった。

「私は、私は……」

 虚勢を張っても毒は効いていたのだろう、アピスの声が枯れてきた。

「死にたく、ない」

 ついに、リリアーナへ向けていた腕が落ち、それきり動かなくなった。

「さっさと、あたしを殺せば良かったのにね」

「私も、そう思います」

「きゃ!」

 独り言に返事をされて、リリアーナは思わずのけぞった。 

「このお仕事、あたし向きじゃないかも」

 ネブラ・ケントルムで、のんびり裏方でもしようかしら。リリアーナは地面へ手足を広げて倒れた。こんな恐ろしい思いは、二度としたくなかった。


「よくやったと褒めてやろう」

 ミズラッハは、地面に倒れるミカとカーラを見下ろしながら言った。二人は元の姿に戻っている。

「殺すには惜しいが、反抗的過ぎて使い物にはなるまいな」

 そんなミズラッハへ、カーラが鋭い視線を投げかける。

「まだ、そんな目をするのか。気に入らない奴だ」

 ミズラッハはカーラを蹴りつけようとした。その足を彼女が両腕でしっかり掴む。

「今だよ!」

 ミカは剣を持って起き上がると、改めて力を解放した。血管が一気に黒く染まる。

「ほう、そんな力が残っていたとはな」

 ミズラッハは驚きながらも、可笑しさを滲ませて言った。

「しぶとい奴め!」

 刃のような爪を振り上げ、迫り来るミカに突き出そうとする。

 その途端、腕が何者かに引っ張られたかのように、後ろへ反った。

「なに?」

 驚愕するミズラッハの首目掛けて、ミカが剣を薙いだ。やった、と思ったのも一時だった。敵もさるもの、カーラの能力を振り切って前腕で首を庇う。

 ミズラッハは死こそ免れたものの、前腕が半分切り飛ばされ、紫色の血が噴き出す。彼は反対側の腕でミカを殴り付けて地面に倒すと、二人から距離を取った。

「ミカ、だいじょうぶ?」

 駆け寄って抱き起こしながら、カーラが尋ねた。

「ごめん、カーラ」

 好機をものにできなかったミカは、消沈しながら詫びた。

「次を考えよう」

 カーラはさばさばとした態度で再び変身をし、片腕を剣に変えた。

「アルバ二世と言ったところか」

 血が滴る腕を抑えながら、恨めしげにミズラッハが言った。

「見過ごせんな、あの様な者が更に増えるのは。ミカ共々、この世から消し去ってやる」

 ミズラッハから発する圧が急激に高まる。気が弱い者なら、卒倒しかねないほどだ。

 こうなったら。ミカは限界まで血を解放することを決めた。

「ミカ、待って」

 カーラはミカの意図を先読みして、制した。

「私が必ず隙を作る。だから、それまでは抑えて。体の負担と意外性を考えたら、そっちの方がいいと思う」

「分かった」

 ミカは信頼を込めてうなずいた。

「来るよ!」

 カーラが言い切る前にミズラッハが迫り、残った方の手から爪を繰り出した。

 ミズラッハは片腕を失った苦痛など忘れたかのように、二人へ猛烈な攻撃を仕掛ける。

 しかし、二人は培った連携で、ミズラッハに伍した。驚くべきはカーラだった。メラン一族相手に引かないどころか、むしろ押してさえいた。

 ミズラッハの呼吸が乱れ、苦鳴が微かに漏れる。

「ミカ!」

 カーラは剣でミズラッハの腕を跳ね上げた。

 待っていた。ミカはここぞとばかりに、力を今までにないほど解放した。血管がどす黒く色付き、自分でも危険だと感じた。だが、ここでやらなければ、次はない。

 ミカは再び、ミズラッハの首を狙って剣を振り上げた。

 ミズラッハがミカに向き直ろうとすると、カーラが胴に深々と剣を突き刺した。

 苦痛で動きが鈍り、ミズラッハはミカを止めることができなかった。

「貴様ら!」

 ミズラッハが、二人を呪い殺すかのような声で吠えた。

 首を断つ瞬間、ミカは後押しされているような感じを受けた。きっと、カーラが残った力を分け与えてくれたのだ。

 ミズラッハの首が高々と宙を舞った。断面から紫色の血が勢い良く吹き出し、二人へ雨のように降り注ぐ。残った胴が力を失い、ゆっくりと横倒しになった。

「やった……」

 ミカは戦いが終わるとすぐに、力を収めようとした。しかし、うまくいかない。血管は相変わらず真っ黒く染まったままで、全身が火照り、頭痛と吐き気が襲う。どうやら、恐れていたことが起こった。

「ミカ!」

 カーラは変身を解くと、よろめくミカを抱き締めた。

「僕、駄目かもしれない」

「諦めないで。気持ちを強く持つの。深呼吸して」

 言われたとおり深呼吸をしながら、精神を穏やかに保とうとする。しかし、一向に力は収まらない。

「ごめん、やっぱり無理だ」

「無理じゃない!」

 カーラはミカから体を離すと、彼の顔を両手で挟んで揺すった。

「ここで死んだら、絶対に赦さないから」

「もう一度、試してみる」

「何度でも試すの!」

 ミカは力が収まるよう、強く念じた。なにも変わらない。けれども、カーラの悲しげな顔を前にしては、泣き言も別れの挨拶も口にできなかった。

 カーラとまた一緒に過ごせたら、いや、過ごしたい。希望にすがりながら繰り返すうちに、体が壊れそうな痛みが徐々に引き、力の暴走が落ち着いて来る。

「だいじょうぶ、元に戻ったよ」

 ミカはやつれた笑みを浮かべた。即興でやるには、あまりにも危険な技だった。

「よかった」

 カーラは泣き笑いを浮かべた。

「やっぱり、カーラは強いね」

 しみじみとミカは思った。技量だけではなく、精神も含めて。

「ミカだって」

「僕なんて」

 ミカはポツリと言った。大きな勝利、そして同じくらいの敗北。カーラと肩を並べるのは、まだ遠い先のようだ。

「そんなに卑下しない」

 カーラはミカの胸を突いた。

「私だって、ミカに負けたくないっていつも思ってるんだから」

「本当に?」

「本当だよ。さ、行こう」

 カーラはミカの手を取った。雨はいつの間にか止み、雲の切れ間から幾筋もの光が、地上へ降り注いでいた。


「お疲れ」

 二人が無残になった森を歩いていると、ヨレヨレのリリアーナが木にもたれながら、片手を上げた。 

「リリ!」

 カーラが倒れそうになるリリアーナを抱きとめた。

「誰にやられたの」

「アピスさん。二人の様子を見に追いかけて来たら、出くわしちゃって。あたしを殺すのなんのって言うから、返り討ちにしたよ」

「リリ、凄いね」

「まあね、ここが違うから」

 リリアーナは咳き込みながら、自分の頭を指先で叩いた。

「だけど、この通りボロボロ。信じらんない」

「アピスさんはどこに?」

 ミカは爆風の影響で無残になった森を見回した。アピスが倒された。あの、調子が良くて小狡く、そして誰よりもしぶとそうな者が。

「多分、あっち」

 ミカは気持ちが昂り、先んじてリリアーナの指差す方へと向かった。果たして、アピスはそこにいた。地面に横たわった彼は、首がおかしな方向に曲がり、脇腹がえぐれて、そこから大量に出血をしている。助からないのは、明らかだった。

「やあ、ミカ君、カーラさんもいるのかな。お久しぶりです」

 アピスがかすれ声で挨拶をした。

「その様子では、ミズラッハ様を倒したのですね」

「ええ、カーラと一緒に」

 アピスを見ていると、子供の頃の記憶が蘇る。くじで負け、嫌々ながら引き取ったとこぼしていたのが、始まりだった。こちらの気持ちを考えない育て方をし、罰し、必要な情報をわざと与えず仕事を振ってきた。どれもこれもひどい経験なのに、なぜか感慨深い。

「実力でしょうか。それとも、あの方の慢心か……」

「両方ですよ」

 リリアーナに肩を貸しながらやって来たカーラが、そう応じた。彼女もまた、なんらかの思いがあるのだろうが、眼差しはミカと違って冷ややかだ。

「大した自信だ。それで、感想は?」

「一つの終わり、です」

「そして始まり、ですか。特に、あなたは」

 アピスは弱々しくせせら笑った。

「あなた達の死に様を見られなかったのが、実に残念ですよ。血塗られた行く末になにがあるのか、地獄に来たら教えてください。先に行って待っています」

「性格悪いね」

「お互いに」

 リリアーナの皮肉を、アピスがさらりと返す。

「では、お別れです。墓は要りません。私の死に様を忘れないように。これは、あなた達の行く末でもあるのだから……」

 アピスはそう言うと、ようやく事切れた。

「最後までらしいね」

 カーラは深くため息を吐いた。

「だけど、アピスさんはこうでないと」

 ミカは肩をすくめた。変にしおらしかったり、これまでしてきたことを悔い改めたりしたら、かえって気持ちが悪い。

「帰ろうか」

 ミカは、カーラからリリアーナをもらい受け、背中に負った。

 街道に出ると、町の方からは、郊外の森の爆発を確かめようと、シャハルの兵士達が馬に乗り、こちらへ来るところだった。

 おーい、とリリアーナが手を振った。

 カーラはうん、と腕を天に伸ばして、疲れを癒す。

 ミカは清々しい心地がした。それなのに、どこか落ち着かない。理由は分かっている。イマーゴもナハル・ニヴも、まだ健在だからだ。まあいい、あまり考えるのはよそう。少なくとも、今だけは。彼はそう思いながら、歩き続けた。

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