第6話 六
慣れない出張で手一杯なのか、翌日の土曜日は、トオルからの連絡はなかった。
日曜日になっても、一向にメッセージは届かない。仕事中、休憩の度に携帯電話をチェックするけれど、何も。さすがに夜には、こちらから『今日で3年目――』とメッセージを打ちかけたが、しゃくなので消去した。
重い頭で、月曜日の朝を迎えた。いつものように、コーヒーメーカーをセットする。ぞんざいにドリッパーをスライドさせたから、カツッといって動かなくなってしまった。何度押してみても、ドリッパーは中途半端にはみ出したまま、定位置に収まってくれない。
まったく、もう!こんなに面白くない休日は、めったにない。コーヒーも読書もやめて、いっそ大掃除を決行することにした。携帯電話の電源を切って、移動できる家具はすべて移動させながら掃除機をかけまくった。
――ポン。何か聞こえた気がして、手元のスイッチを切った。
ピンポーン。インターホンが鳴っている。
「はあい」応答ボタンを押す。
「あ、俺。電話したけどつながらないから、直接来た」
「え?トオル?」
急いで扉を開けると、両手に荷物を持ったトオルが立っていた。
「ゆうべは連絡できずにゴメン。向こうの支所の課長とかに捕まってさ、飲みに――」
「とにかく、入ったら」わざと、そっけなく言ってやる。「で、酔っぱらってホテルになだれ込むのが精一杯で、気が付けば朝になっちゃった?」
「嫌味な言い方だなあ。本当に昨日の夜には電話しようと思ってたんだ」
黙ったまま、掃除機を片付ける。
「それと、これ。大阪の百貨店で見かけたんだ。前に壊れかけてるって言ってたから、どうかと思って」
「え、何?」
「コーヒーメーカー」
ちょうど使えなくなったところよ。とは、言わずにおいた。
「ありがと。大阪土産のコーヒーメーカー」
「チクチク来るな。ま、とりあえず、俺が一杯淹れてさし上げるよ。ナミは座っといて」
トオルに渡すつもりで買っておいたモスグリーンのマグカップ、どのタイミングで出そうかと考えながら、図書館の本をパラパラめくった。白い紙きれは、どこにも見当たらなかった。
―終わり―
コーヒーを淹れよう とびうさねねこ @171703
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