one more final
あの日……お兄様とマホ姉様が出会ってから2日が経過した、あの日。
私は、祭壇のような装置の上で目覚めました。実在性の維持、あるいはハイパースリープに使用される装置です。
その日に生を授かったのか……ずっと眠っていたのか、それは分かりません。
「……でも、生まれてきた理由は分かっていました」
私は、お兄様の家に向かうと、お兄様のお兄様の部屋へに入りました。
引っ越しをしてすぐの、まだ何もない部屋……
空間切り替え装置をセットします。これで私以外がこの部屋に入ると、別の宇宙のこの部屋と繋がるようになりました。
続いて、空間拡張装置でクローゼットの奥に巨大な空間を作ります。ビッグブラザーの転移は、本日中に完了するとの事です。
「それから、およそ9年間。私はこの空間で過ごす事となります」
私が生まれてきた理由。それは、ビックブラザーを使い、お兄様を監視する事。そして未来に矛盾が生じないよう、必要に応じて、ノートに関わる者の記憶を改変する事、あるいは行動の制御を行う事でした。
まず取り掛かったのは、お兄様の記憶を改変する事でした。お兄様の過去を奪う……スイッチを押す手が震えました。
もちろん、それが使命とあれば後悔はありません。しかし、それが許されない事だというのも分かっていました。
「最初は、罪の意識からでした」
私は、お兄様が少しでも幸せに過ごせるように、日々、祈り続けました。
それは、私が出来るせめてもの罪滅ぼしでした。
しかし……ある時、気付いてしまったのです。私がお兄様に幸せになって欲しかったのは、贖罪の気持ちから、だけではないという事に。
自分と似た境遇のお兄様に、シンパシーを感じていたからかもしれません。
画面越しに、何時も見ていたお兄様に、何時の間にか感情移入してしまっていたからかもしれません。
「いえ、違いますね。もっとシンプルで分かりやすい……」
あの日、マホ姉様が願ったのは、何時でも自分を見つけくれて、どんな時でも自分を見てくれる、そんな“私の理想のお友達”でした。ですから、お兄様……お兄様がマホ姉様を好きになったのは、お兄様の自身の想いです。
そしてマホ姉様が、お兄様の事を好きになったのも……
「なんだか少し、胸の辺りがチクチクします……」
この感情の名前を、私はまだ知りません。
お兄様の事を知れば知るほど、私の中でこの感情はどんどん大きくなっていきました。そして、今も大きくなり続けています。
「お兄様と出会って、お兄様とお話をして、お兄様と手を繋いで……」
お兄様……私にとってお兄様は……紛れもなく『私の主人公』でした。
「……あなたにとっても、そうだったのでしょう?」
boy meets girl 1.2 完
星ヶ崎マホ子のステキな魔法 並平凡 @namihira
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