● 四日目
色々考えていたら眠れなくなって、明け方にウトウトしたら寝過ごしそうになった。
しまった。もう九時半だ。チェックアウトは十時までじゃなかった?
ユーマは昨夜から斎場に行っている。現場責任者として。それがどれだけ辛いか、私は想像することしかできない。
全財産が入ったトランクは引っ張るのが軽く楽になっていた。中身はほとんど変わっていないから、おそらく私の気の持ちようなんだろう。
ゲートハウスにはイワガミさんがいた。チェックアウトを申し出て鍵を差し出すと、イワガミさんは手に持っていたものをカウンターに置いた。
見ると、少し日に焼けたパノラマ写真だ。
「これ」
「ああ、ここの開場式の写真です。こう見ると随分時間が経ったな、と思ったので。ほら、これが香耶さんで、こっちが由真さん、こんな可愛らしい頃があったなんて忘れてましたよ」
真ん中に立つ、小学生と幼稚園児のとても可愛い姉妹を指差す。
は?
もう一度見る。
小学生に見える方は勝ち気で活発そうなポニーテールの女の子。全身で楽しそうに笑っている。
幼稚園児くらいの子はツインテールのおしとやかそうな女の子。全く笑顔がない。
「ユーマってこれですか?」
幼稚園児を指差す。
「そう、今の姿からは想像できないでしょう。昔から無愛想なところは変わらないけれど」
んんん?
「由真さんが、あんな風になったのはここを継いでからですよ。こっちの方が楽だからって言ってましたけど、多分、香耶さんとよく似ているのが嫌だったんじゃないかと思うんです。始めの頃は、ここのスタッフも間違えそうになって、由真さんはそれが嫌だったんでしょう」
もしかして男に不必要に興味を持たれるのが嫌だったのかもしれませんけどね。イワガミさんは、そう結論づけた。
カッと全身が燃えるように熱くなった。
……ユーマ、私を騙してたのね。何で一度も訂正してくれなかったの。
昨日の私の発言をどう思ってたんだろう。
……どうしてユーマはあんなことを言ったんだろう……。
そう言えば、みんな、ユーマのことをユマさんと言っていた。聞き間違いかと思っていたけど……私が間違っていたんだ……。
イワガミさんに悟られないように、慌てて取り繕いながら、ゲートハウスを飛び出した。
駐車場には到着時とは比べものにならないくらいの数の車が停まっていた。みんな夏の名残を惜しんで、やってきているのだろう。そう思うと、車の照り返しが眩しく思えた。
私は急いで出発した。実家まではまだ十時間以上かかる。
考えれば考えるほど、どんどん恥ずかしさが募るけれど、不思議と後悔はしなかった。
ユーマが絶対後悔すると言ったのは、おそらくこのことだったのだ。私が勘違いしていることを知ってて、後悔すると言った。……だったらその場で言いなさいよ。
……それとも意図的に勘違いさせたんじゃ……それは考えすぎか……。
でも多分、私の気持ちは変わらないな、と思う。
とりあえず、出来る限り急いで復学の手続きをしなくては。
そして、また、あの夕日の前で、今度こそちゃんと告白しよう、本当の君に。
あの夕日をみよう 遠実らい @nijiiro-osakana-kan
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