第19話 運営たちの会話劇


「あんぎゃああああぁぁぁっっ!!??」

「うるせェ!」

「こちとら仮眠中なんだよ、安眠妨害で訴えるぞ」

「すんまっせん! で、でも、でもっ! 蛇姫が……」

「蛇姫ェ? ああ、そういや雨降ったから、ポップ条件は満たしていたか」

「なにー? どっかの配信者と遭遇して、あれはなんだって感じの問い合わせでパンクしたー?」

「半分正解っす」

「半分?」

「正解は、テイマーが配信中に蛇姫と遭遇して、特殊テイムに成功しちゃいました」

「は?」

「ふぇ?」

「……はあぁぁっ!?」


「アハハ! まーじーでーぇ!? ちょ、こんな序盤で『』がPLの手持ちになっちゃったの!? やっばぁ!」

「いやいや、まてまてまて。蛇姫の特殊テイム? 発売前の最終チェックでも、あんなの誰がクリアできんだって上から言われたくらい、面倒くせェ条件にしたはずだろ!?」

「はっ! もしや、バグった……?」

「安心してください。バグじゃないっす。というか、テイムした本人が率先して、「これ大丈夫ですか」ってGMコールかけてきたんで、チートの線もほぼないっす」

「いい人!」

「ってか、配信してたんでしょ? アーカイブとか見ればいいじゃん」

「そ、それもそうだな。どこの誰だ?」

「これです。『極楽鳥花愛華』。例のVコンバートシステムを適応させた、公認ライバーの子ですね」

「Vライバーか。しかもコンバート勢なら、なおさらチートはないな……」

「ああ。アバターを持ち込む都合上、不正なシステムや非公認外部ツールを使ってないかのチェックは、特に厳重にやっているからな。配信アプリとか、申告したもの以外を使えば、即垢BANかつ罰金が発生する」

「うぇ。いつも思うんすけど、がちがち過ぎません? そんなんだから、Vの人たちがしり込みして、なかなか入ってこないんじゃ……」

「お前はVRMMOプログラマーのくせに、『早乙女事件』を知らねェのか? あとで勉強し直してこい」

「さおめちゃん、あれのせいで引退しちゃったからねぇ。推してたのに……」

「脱線もほどほどにな。今はこっちだ」

「っと、すまん。問題の動画は……配信自体はもう終わってんのか」

「蛇姫のステをちょこっとだけ確認したあと、ログイン制限のアラートが鳴っちゃって、さっき終わった感じっすね。あ、後半の遭遇シーンから流します」

「……うん。エンカすること自体はいいんだよ。蛇姫の出現条件は『雨が降った次の日であること』だから。それでも天候はAIがランダムで決定しているし、ポップする確率は超低いけどな」

「あれ? 時間帯固定じゃ……って、それ帝王か。ごめーん、続けて?」


「えっ、ここで識別しないで逃げるのか!?」

「しかもベリーめっちゃ投げてる!?」

「ここが一番のターニングポイントっすね。蛇姫は一度、識別を受けるとアクティブ化して、戦闘になります。そうなると、もう特殊テイムは不可能っす」

「冒証をやり込んだユーザーほど、そしてまだゲームが始まったばかりだからこそ、初見の敵には識別を使いたくなるもんねー。そうして戦闘になれば、まだエリアボスにもたどり着かないレベルのプレイヤーは、蛇姫になすすべなくやられちゃう。……うーん、我ながら、いやらしいったらないや」

「実際、コメント欄は識別しろって何度も言う、指示厨がいましたしね。俺ならてんぱってやっちゃいます」

「っつっても、この人は回避したけどな」


「識別しなかった理由が勘って……」

「つか何で、フィールドに留まったまま、のんきに米返ししながら、休憩してんだよ!? せめて完全なセーフティゾーンでやれやァ!!」

「アッハッハッハ! しかも従魔のお手入れもし出しちゃった! 普通のエネミーも出るかもしれないのに、度胸あるねぇ!」

「度胸ってか、行き当たりばったりで、何も考えてないだけじゃ……って、まてまて!? この状態で、従魔清潔キットを使ったってことは……!?」

「お察しの通りっす。蛇姫再出現からの、『一定時間、何もしない』最後のフラグ回収で、見事に条件達成しました」

「なんでだよおおぉ!!」

「どうしてゲームエネミーに土下座してんだアァァァ!!」

「アッハハハハハハ!」


「うわすげ……『識別しない』『スネークベリーを食べさせてから逃げる』『フィールドに留まって、従魔の汚れ状態を取る道具を使用する』『再エンカした蛇姫に一分間、何もしない』……隠しフラグを、きっちり回収し切ってる」

「そうすれば戦闘なしでテイムできるって、こっちで設定を用意していたからね。私ら運営チーム的には、なーんにも文句言えないよ。むしろ、初見かつヒントなしでよくやった! って褒めるべきじゃない?」

「それはそうだけど……」

「こっちの想定としては、ぐうぜん遭遇してキルされて、あれはなんだ!? って感じに掲示板とかで噂になって、少しずつ体当たりで情報収集して、ようやく正体にたどり着いて撃破する、っつうシナリオだったんだよ。……この特殊条件も、ほとんどやけくそで組んだチャートだったしなァ……」

「だからこそ、でしょ。チートやバグに頼らずに、正規の条件を満たして手に入れたんなら、それはそのPLのプレイングの成果だよ。幸い、この愛華って子はのんびりソロで攻略するタイプみたいだから、一人だけ突出して狩場を独占して、もっと他と差を広げるような真似はしないでしょ」

「そ、そうっすよ! ゲームリリースから、まだ一週間ちょっとしか経ってないんすから、他の人たちだって、これからどんどん強くなりますって! むしろ、これをきっかけに、俺たちも負けてらんねぇ! って気持ちになってくれるはずっす!!」

「……はあ、過ぎたことはしょうがない、か」

「うん。とりま、私たちの目下の課題は……」

「課題ィ?」


「今めっちゃ拡散されてる、蛇姫テイムの切り抜き動画を見た、PLたちからのコール対応の人員強化と、他三体……あれ? 暴君はでいいんだっけ? ……とにかく、残りの四天王たちの調整見直しだね! ゲーム検証班の執念はすんごいから、帝王以外は、ネタ割れちゃうんじゃない?」

「げェッ!?」

「ウソだろ、今度の第一回イベントの調整もまだなんだぞ!?」

「徹夜は嫌っす――!!」




「……ん? あれ? 蛇姫がいるんなら、場合によっては帝王も出て来るんじゃ? …………さ、さすがにないっすよね!」

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