第18話 緑雨上がりの蛇姫


“緑雨上がりの蛇姫”青梅

種族:ノーブルスネーク/ユニーク LV20

ステータス

体力30 筋力27 走力30 器用19 知力28 精神24

HP114 MP104

スキル

幸運 半水生 熱感知 毒耐性 噛みつき 締めつけ 毒 麻痺 水魔法 木魔法 浄化 醸造


好物:スネークベリー、酒類


装備

なし




称号タイトル:“ユニークテイマー”を入手しました』

称号タイトル:“二つ名持ちに認められし者”を入手しました』

『スキル『真名理解』のを取得しました』

『職業レベルが上がりました』

『種族レベルが上がりました。任意のステータスを一つ、上げることができます』『スキル『命名』のレベルが上がりました』

『スキル『使役』のレベルが上がりました』


『『蟒蛇うわばみ醸造樽じょうぞうだる』を入手しました』


「………………なぁにこれぇ??」


・ええええ

・はああああああああ?

・こっちのセリフだよ!

・ぶ っ こ わ れ

・チート乙24しました

・←即運営にバグじゃないか確認のGMコールした愛華ちゃんがいつ不正したって??てめぇこそ誹謗中傷で24すんぞ

・えええええええええええ


 土下座していたら、なぜか例の大蛇がテイムできてしまった件。

 ……いや、マジで何がどうしてこうなった??

 コメント欄は過去に類を見ないほどの、阿鼻叫喚具合。中には不正行為、つまりチートを疑う言葉もあったけど、まあ仕方ない。ぶっちゃけ私ですら、何かの不具合を疑って、GMコールしたくらいだし。

 それくらい、私が『青梅あおうめ』と命名したヘビ……“緑雨上がりの蛇姫”とやらは、衝撃的な存在だった。

 ぶっ壊れポイントその一、種族レベル。第一エリアに出て来るエネミーの平均レベルは、五~八程度。ボスモンスターですら、レベルは十三だという。なのに、この子は二十という、序盤のフィールドではありえない数値を、示していた。

 ちなみに、冒証でテイム可能なモンスターの、一次進化可能となるレベルは十五。『スネーク』ではなく『ノーブルスネーク』という種族名を持つことからも、すでに進化済みだと分かる。

 ぶっ壊れポイントその二、ステータスとスキル。確かに、ユニークモンスターはステータスが高くて、特殊なスキルを持っている、とは言ったよ? でもこれは異常すぎ! 平均値が約二十六って……しかも、どの項目も隙がないオールラウンダー。

 けれど、これすら霞むほどひどいのは、スキルの方。


「物理攻撃、状態異常、属性魔法の全部が揃っている上、『浄化』のアンデッド特攻持ち? 『半水生』の効果で水中でもしばらく動けて、熱感知で索敵だってできる。……『醸造』で生産もこなすし、挙句の果ては『幸運』で確率が関わる判定全部に、プラス補正がかかる……? うっわぁ……」


 もうここまで来たら、引くよね。こんな化け物と戦う羽目にならなくて、本当によかった……。瞬殺どころか、ワンパンされて終わっていたよ、絶対。

 そして、ぶっ壊れポイントその三にして、一番の大問題。青梅がということ。




称号タイトル:“緑雨りょくう上がりの蛇姫へびひめ

 青の深林に座す、龍を目指す古強者ふるつわものたる個体の証明。

 潔癖であり、わずらわしいことを好かない彼女は、雨上がりのひと時のみ、姿を現す。

 例え目が合っても、不躾に探ろうとしてはいけない。誇り高き姫君は、無礼者に対して、一切の情けをかけはしないのだから。

 この称号を持つものは、森林フィールドでの行動補正(中)を得る。

 この称号を持つものは、パーティーメンバーにも『幸運』スキルの効果を付与できる。



 そもそも称号とは、プレイヤーが入手していくもの、というのが、私たちの共通認識だった。過去作では、NPCが特別な称号を持っていることもあったけど、モンスターがそれを有しているのは、前代未聞にもほどがある。


「えーっと、一応、聞いてみますね? リスナーさんたちの中で、『称号持ちのモンスターを知っている』って人、いますかー? ちなみに、私は初代冒証から今までで、初めて見ました」


・しらない

・初見

・冒証古参勢だけど見たことない

・現時点で称号を持つエネミーの報告は上がっていません。新発見です。ありがとうございました。@震えている検証班


「でっすよねー」


 乾いた笑いをこぼしつつ、私はヘビこと青梅の方を、ちらりと見やった。

 青梅は黒檀丸の近くで、何やらうろうろしている。明らかに格上のモンスターに、黒檀丸は緊張してしまっているが、意外にもお互い威嚇したり、ケンカしたりする素振りは見せない。どうも、「黒檀丸が先輩で、青梅が後輩」というテイムモンスター同士の上下関係を、しっかり理解しているっぽい。

 と、視線に気づいたのか、青梅がこっちを向いた。そのまま、私の元に戻って来る。


「わっ!? ど、どうしたの?」


・またキットつんつんしてる

・もしかして、洗ってほしいんじゃない?


 青梅はテイム前のように、私が持ったままだった従魔清潔キットを、また突き始めた。落ち着いて来たコメントに、まさか、と思いながら恐る恐る使用アイコンを押して、青梅を洗い始めると、気持ちよさそうにくつろいだ様子になる。


・まさかきれいにしてほしかったから、わざわざテイムされに来た・・・?

・ええ?

・そんなことあるぅ??

・称号文の潔癖ってそういう意味?


 ざわつくコメントをバックに、無心でブラシを動かし、泡を流して、タオルで拭いてやる。


「ぁ……」


 汚れが取れた青梅は、それはそれは美しかった。

 体表は青みがかった鈍色。けれど鎖模様が入った鱗は、光の加減や角度によって、多種多様の色合いを反射する。腹は乳白色で、背側と違って神秘的な輝きはないが、だからこそ生物的な柔らかさと質感を、印象付けてきた。

 自身がきれいになったことが、相当うれしかったらしい。青梅は鎌首を揺らして、私に頬ずりするような仕草をしてくる。金色の目は満足気に細められていて、とても、とても……。


「かわいい!!」


・あんだけびびり散らしてたのに

・手のひらドリルェ

・かわい、い・・・?


 即落ち? 掌クルー? なんとでも言えばいい! だって本当にかわいく見えるんだもん!

 そもそも私、ヘビはけっこう好きな方なんだよね。というか、生き物全般が好き。

 確かに最初は怖かったけど、あれは『今の私じゃあ絶対に敵わないエネミー』として、見ていたから。でも今の『私のテイムモンスター』として懐いてくれる姿を見たら、もうめろめろになっちゃう!

 ぶっ壊れ性能だとか、周りのPLの嫉妬だとか、なんでテイムできたのとか、もうどうでもいい。とにかく、この子はうちの子! それでファイナルアンサー!


「えへへ、これからよろしくね、青梅!」

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