第17話 『規定条件を全て達成しました』
想像してほしい。
ついさっきゲームの中とはいえ、命の危機を感じるほどの威圧を与えてきた巨大なヘビが、エリアの出入り口付近まで追って来て、音もなく真後ろにいたときの恐怖を。
「な、なんっ、あっ、うえぇあ……!?」
「……」
・追って来やがった!?
・愛華ちゃん逃げろ!
・識別!!
私のアバターの数倍は大きいヘビに、数センチメートルの至近距離でにらまれた私は、完全に腰を抜かしてしまっていた。頭が真っ白で、意味のない声をこぼすしかできない。
無理。これは無理。死んだ。フィールドの境界線がすぐそこだとしても、こいつに丸のみされる方が早い。黒檀丸も固まっている。コメントも読めない。あっ、さっき出入口で補給するのは、迷惑かと思って脇の木立に移動してたわ。じゃあぎり周りから見えてなくて、他PLの横殴りという名の救助も、期待できないじゃん。積んでるぅ。
「……?」
ヘビににらまれたカエル状態の私に、大蛇は鎌首を寄せて来る。
緊張が限界突破して、もう呼吸も怪しいこちらの状態が分かっているのかいないのか、そいつは私の手元――正確には、右手に握られたままの従魔清潔キット――を、器用に突いた。
「何、なに、ナニ……?」
「……」
……あれ? こんなに近くにいるのに、なんでまだ戦闘になってないんだろう?
というかこいつ、まだノンアクティブ? それに勘違いかもしれないけど、ちょっと不満そうに見える、ような?
「こ、これは、私がテイムした子をきれいにしてあげるやつだから、野良のあなたには、使ってあげられないなー?」
「……」
「いや勘弁してくださいマジで食べ物あげるしかやれることないですてか食べ物すらもうないですうちの子になってくれたら別だけど……ああああごめんなさいなまいき言いました見逃してくださいガチで」
・なんで敵mob相手に命乞いしてんの?
・本気で土下座してて草
混乱の極みに置かれた私は、自分でも何を考えているんだか、言っているんだか、分からないまま、脳直で行動していた。あとでアーカイブを見直したら、
AIのプログラムに沿った行動をするだけの、フィールドエネミーに命乞いするという、まるで意味のない言動。
だがしかし、ここに奇跡が起こった。
『規定条件を全て達成しました』
『“緑雨上がりの蛇姫”ノーブルスネークの特殊テイムが可能になりました。テイムしますか?』
「………………はへ??」
・え
・あんだって???
――――
第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト応募記念・夏休みスペシャルウィーク第二弾
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